夜のモブ その5

 「「いらっしゃいませ」」

 「2人ね。ボックスでいい? 」

 「うん、いいよ」

 「お好きな席へどうぞ」

 寄るつもりじゃなかったけどな――――と頭を搔きながら、男は連れの女と一緒に四席あるボックス席の最奥の席へ腰を下ろした。

 「こちらおしぼりとメニューでございます」

 「はいはい」

 「どーもー」

 すかさずおしぼりとメニューを出しカウンターへ戻ると、マスターと共に二人の動きを見る。

 「童顔な大学生か完全なJKか。ま、なんにせよ二人とも香ばしい気配だな」

 「だね」

 声量を気遣うのはもちろん、話をしていると勘づかれぬように他の作業をしながらマスターと言葉を交わす。

 実はこのような男女を見るのは今回が初めてではない。バーという営業形態故か、少々怪しげな男女の姿というのはたまに目撃するものだ。

 関係性も様々で、一概に男が女を連れまわしているという訳でもないらしい。

 「ちょっと飲んだら、もういいだろ? 疲れもあるだろうしさ。少し休もうよ」

 「何言ってるのー。日中は若い奴なんか敵じゃないって言ってたじゃん」

 「あの時は元気だったんだよ。夜になればおじさんの若作りも限界が来ちゃうんだよ」

 ――――まあ、ラビちゃんと休憩できるんなら、それこそどんな奴にも負けないけどね。

 男は平然とそう口に出した。

 「えー、どういう意味いみい」

 女は天然を装ってその言葉をあしらう。

 わかりやすい地獄がそこに広がっていた。

 「まあとにかくさ、シャワー浴びてスッキリしてさ、三時間ぐらいベッドでごろごろしてから帰ろうよって話。ラピちゃんも疲れたでしょ?」

 「ウチは全然元気だよー。いまから遊園地行けちゃう」

 「元気すぎだよ……。――――だったら逆に一杯体動かせる場所に行こうか」

 「どこどこー?」 

 「それは着いてからのお楽しみかな。さあて、今日はラピちゃんののお祝いだったしね。ぼくから大人の嗜みってものを教えてあげようかな」

 注文! と手を上げる男。こちらを見ることも無く、召使いでも呼びつけるような口調に苛立ちながらも、僕はオーダーを取りに向かう。

 「スクリュードライバーとカルーアミルク。カルーアは濃いめ。あとチョコ―レート」

 女を見つめたまま男がオーダー。なるほど、見かけ通りの最低なラインナップだ。

 でも、このまま受けるわけにはいかない。僕はこれからの分かり切った問答を予測しつつ、男に告げた。

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