モブとはなんたるか その10

 まさかとは思ったが、吉田さんにもこの話を振るとは。

 仕事を止めてまでこんなどうでもいい話をしたら、さすがにキレられるのではなかろうか。

 「……本当に雑談じゃない。でも趣味、か」

 「そう趣味。清が趣味がなくて有意義な休みを過ごせてないみたいだから、何かヒントにならないかと思って」

 「だからって、わざわざ吉田さんの仕事止めてまで聞かなくていいだろ。なんかごめん吉田さん。僕らの雑談に付き合わせちゃって」

 「まあ他にお客さんもいないし、構わないわ。参考にならないかもしれないけど、私の趣味はピアノとミニチュア集めかな」

 「The女子って感じだな」

 「何か皮肉めいて聞こえるんだけど、締め出していい?」

 「それは被害妄想が過ぎる! 純粋にそう思っただけだ。お嬢様学校はやはり違うのか」

 「そんなの外部の人間が勝手に築いた妄想よ。本物のお嬢様なんてほんの一握りよ。そもそも私の趣味は両方とも好きでやってるから、ピアノも小さい頃からやってるけど親の強制なんかじゃないし」

 「なるほど」

 昔からやっているというのは、趣味としては大きな要因かもしれない。

 はじめはなんとなくやっていたことが、続けていく中で良さや楽しさを見出すことができるようになるということもあるんだろう。

 しかし、大輝から聞いてはいたが吉田さんは本当にお嬢様学校に通ってるんだな。

 趣味の話もそうだが、むしろ学校の話の方が吉田さんから聞いてみたいところだ。

 「でもまあ、趣味なんて無理やり見つけるものでもないだろうし。気が付いたら好きでよくやってるな、みたいな感じのことが趣味だと思うわ」

 「勉強になります」

 気が付いたら、か。なんか納得した。

 趣味を見つけようとするのも悪くはないかもしれないけど、日常的にやっていることで楽しみを見つけていけば、それが趣味になっていくということかもしれない。

 「じゃあひとまず、ここで駄弁ることを趣味の第一歩にするってことで」 

 「趣味と呼ぶのならそれを提供している人たちにはリスペクトの精神を持たないとね。例えばカフェオレ一杯で数時間粘るなんてこと、あるわけないわよね」

 ギラリと吉田さんの目が光る。狩人の目だ。

 「チョコバナナパンケーキを二皿、ホイップ増量でお願いします!」

 「よろしい」

 「はいよー。ちょっとまっててね」

 「僕の分まで勝手に頼むなよ……」

 運ばれてきたパンケーキを食べつつカフェオレをもう一杯おかわりして、僕らはフルールを後にした。

 ちなみに、勝手に頼んだくせに料金はきっちり割り勘だった。僕が食べたのは確かだけど解せぬ。

 外に出れば商店街も薄紅に染まり、他に行くところもなかったので大輝とも別れて帰路についた。

 別れ際大輝の放った言葉

 ――――俺の趣味は笑美。

 此奴こいつと出会って生理的に嫌悪したワードランキング一位を更新したのは言うまでもない。

 

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