モブとはなんたるか その9

 「これからの休みの予定はあるのか」

 「いや、特に何も。バイトと家の往復だな」

 「悪くはないだろうが、せっかくの休みがそれはどうよ」

 「まあな」

 大輝の投げかけは、僕が一番自覚している。

 僅か3年の高校生活の中の貴重な春休み。部活に打ち込むなり、友人との思い出作りに励むなり選択肢は無数にあるはずなのに、なんとも味気がない。

 「そういっても、これといってやりたいことも無いしな」

 「無いなら探せ! 清のことだからそう言いながら家でゴロゴロしてるだけだろうが」

 「よく知ってるな。大輝は僕のオカンだったか」

 「んなわけあるか。いつ宇宙人に知らない記憶埋め込まれたんだよお前は」

 大輝オカンの言い分はもっともだ。

 僕には趣味と呼べるものがない。バイト三昧の原因はそれが大きい。

 人並みに漫画・ゲーム・アニメ等々趣味になりそうなものには触れてきたが、心血を注ぐほど熱中できるものは見つからなかった。

 最近はバイト以外は家で無為に時間を浪費しているのが現状だ。

 「俺もそんな趣味って言えるほどじゃないけど、キャンプとか最近よくやるぞ。焚火はいいぞ。見てるだけで時間が過ぎる」

 「キャンプねえ。行けばそれなりに楽しいとは思うんだけど、行くまでに腰が重いんだよな」

 「まあアウトドアはそこがネックではある。事前準備すら楽しくなったら完全に沼にはまるんだがな」

 腕を組み大輝が思案する。目を閉じ左右に揺れながら、僕の趣味について考えてくれているようだ。なんだか申し訳なくなってきた。

 すると突然大輝が開眼し、カウンター脇でカトラリーを磨く吉田さんをおもむろに見た。

 「笑美えみー! ちょっといい?」

 「なに。注文?」

 「いや、質問というか雑談」

 「一応バイト中なんだけど……」

 「別にかまわないよ。新しいお客さんが来たらお仕事お願いね」

 顔を曇らせる吉田さんとは対照的に、マスターは笑顔だった。

 「すみません。ありがとうございまーす」

 「アンタが言うな! ちょっと行ってきます」

 「はいはーい」

 マスターに見送られ、不服そうであったが吉田さんがテーブルまで来てくれた。いったい何を聞くつもりなのだろう。

 「笑美は今なんかハマってることある? 昔からでもいいけど趣味というかこれがあれば時間が潰せるってやつ」

 

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