モブとはなんたるか その7

 来た来た。最高に楽しい時間の始まりだ。

 『何回目だよその入り。今日はかますんだろうな』

 『見てろって。今日の俺はいつもとは違う』

 この言葉も今まで何回聞いただろう。

 そう思いながらSNS、LOIN(ロイン)のやり取りは続く。

 『と言うと? 今日こそは秘策があるのか』

 『名付けて、ご注文はわたしですか? 作戦!」

 『大輝先生の次回作にご期待ください』

 『始まってもないわ!』

 『ネーミングから香ばしい気配しかないのだが、一応内容は聞いてやろう』

 『いつもより多めに注文をする。すると笑美は気分が良くなるだろう。注文の最後、思い出したかのように言ってやる。〈あとは笑美が欲しい>と』

 『香ばしいどころか焦げ付いて大火傷だな』

 『どこがだよ』

 『全部だよ。やるなら止めないが、やめておいた方がお前の立場をこれ以上落とさずに済むと思うぞ』

 『そこまで言われるのか……。仕方ない考え直そう』

 『それがいいだろう』

 やり取りを終えたスマホをテーブルへ置き、僕たちはカフェオレを呷る。

 はたから見ればカフェに来たのにスマホとにらめっこをするだけの現代っ子、の絵面な訳だが、好きでこんなことをしているわけではない。

 LOINのやり取りから察してくれただろうが、要は大輝は吉田さんに好意を持ち、告白の機会を伺っているのだ。

 僕の立場はその仲介役――――キューピッドのような感じ。

 そしてこの立場、僕にとっては最高の娯楽である。

 友人の恋仲の取り持ち、まさに最高のモブ職だとは思わないか。いや思わないはずがない(反語)。

 しかもこの二人。なんと幼馴染だそうだ。

 この店が出来てすぐの頃から吉田さんはアルバイトをしており、初めて僕らが入店したときに二人は久しぶりに再会した。

 大輝の話では、親同士が中高の同級生で親友。大人になってからも交友は続いており、その絡みで小さい頃から顔を合わせていたのだそう。

 しかしそれは小学生までの話で、中学以降は自分で行動を選択し始めるようになる。親についていくということが無くなる。

 加えて学区の都合で別の中学に通うようになってからは、直接顔を合わせることはなくなった。よくある話だ。

 だが、それが今こうやって再会し、あまつさえ恋愛感情が芽生えているというのだから、ここまでくるとどこのラブコメですかと聞きたくなる。

 そんな背景を持つ二人の様子を軽くちょっかいを掛けつつ、つかず離れずの様を肴に飲むカフェオレ……プライスレス。まあ、お金は払ってるけどね。

 

 

 

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