モブとはなんたるか その5

 「この後はまたバイトか?」 

 「いや、午前中寝れてないからバイトは休みにした。これからは暇」

 大輝の問いかけに僕は机に突っ伏しながら返す。

 バイトの時間帯の都合上、僕の体調も加味すると出勤時間ぎりぎりまで寝ておかないと後半眠くて仕事にならない。

 以前睡眠不足のまま勤務したら地獄を見た経験から、万全の体制で臨めないようであれば大事を取って休むようにしている。

 「なら、前に行った喫茶店で駄弁ろうぜ。あの商店街の中にあるやつ」

 「フルールな。行くか」 

 特にすることも無いので誘いに乗ることにした。実際春休みが始まってからバイト先と家の往復しかしてなかったから、いい気晴らしだ。

 各々バッグを背負うと校門へ向かう。

 校舎から校門まではコンクリートで舗装された道が50メートルほど続き、それに分断される形で、左右に野球部とサッカー部の姿が見えた。

 お互いに威勢のいい掛け声で士気を高めながら部活に向け準備を進めているようだ。

 「いやー、青春ですな清さん。」

 「ですな大輝さん。我々には眩しすぎて直視できん。彼らこそ高校生のあるべき姿よ」

 大輝と二人、どこか遠い目をしながら軽口を叩き合うと、そのまま商店街へ。

 商店街は学校から200m程離れた場所にある。レトロな昭和の雰囲気漂う、なんとも居心地のいい場所だ。

 いつもなら、下校時刻から部活終りの時間帯に掛けてうちの学生の溜まり場となっているが、春休みど真ん中の13時ではそれもまばらだ。

 軽く色褪せた『花園商店街』の文字が躍るゲートをくぐり、歩いて1分弱。目的地のフルールへ到着した。

 クリーム色の角ばった外観。壁を切り取ったように横一線にガラスが張られ、モダンな雰囲気漂う店内が覗える。

 以外にも中はクラシカルなザ・喫茶店というような様子で、向かって左がカウンター、右がテーブル席の配置。

 周りの店が歴史を感じる外観の為、建って日の浅いフルールの外観は浮いて見える。『ミートよしだ』と『吾妻工務店』に挟まれているのも手伝って、店の前だけ別空間のようだ。

 からんからん――――

 軽快ながらも、どこか気品を感じるドアベルが鳴って、僕らの入店を告げた。

 「いらっしゃいませ! って、なんだあんたらか」

 心地良い声音と満面の笑顔で出迎えられたのも一瞬、彼女の表情は僕らの顔を見た途端に曇ってしまった。

 

 

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