モブとはなんたるか その4

 「気にすることはない。陰キャが悪い訳でもないであろう。我々はひっそり楽しく生きようぞ」

 「確かにな…‥。だが、俺はあきらめない! ここが嫌ではないが、必ずしや坂上のような勝ち組になってみせる。俺は負けんぞ。卒業までに告白されてみせる」

 「それだけ熱く語っておきながら、あくまで受け身とは……」

 自信に満ちたガッツポーズに感嘆の声が漏れた。

 人に言えたことではないが、これほどつま先からつむじまで陰キャに浸かっている奴も珍しいだろう。

 そしてこの温度感に心地よさを感じている僕も手遅れ感が否めない。

 そんなこんなで駄弁っていたら新しい担任の相模原さがみはら先生がやってきて、このクラス初のホームルームが開かれた。

 クラス分けは卒業式の日、3年生を送り出した後1.2年生で体育館の片づけを終わらせた後に発表された。

 そこで大輝と同じクラスであることを知った。

 そのタイミングでは大輝と会わなかったので、今日あの話題が振られたわけだ。

 クラス内の雰囲気といえば中学から変わらない。皆とりとめのない会話を牽制し合いながら、相手との距離、クラス内の立ち位置、人柄を探り合っている。

 何とも言えないこの空気も4月1日の登校日が始まれば早くて一日。おそくとも三日後にはおおよそのクラスのグループとカーストが決定し、次のクラス替えまで不変のものとなる。

 先生のホームルームはあっさり終わった。

 ダウナー系とでもいうのだろうか。気怠そうな身のこなしと声音、言ってはなんだが教頭とかに怒られても文句は言えないような立ち居振る舞いに感じた。

 まあ、担任を持たされるくらいだから実力は確かなのだろう、と学生の身分ながら深読みしてみたり。

 根拠のない噂だが、若い時に水商売をしてたとか。どこから出た噂とも知れないが、個人的には接客業向きの風体には見えない。

 見た目は正直、キレイ系お姉さんの感じだが、不摂生なのか目の下の深い隈が他の良さを全て無に帰している。

 一言でいえば、良くも悪くも緩そうな担任。

 そんな印象で、この日の午前中は過ぎていった。

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