第50話 可能性
「データを解析していたのは、相川がずっと触っていたパソコンですかね」
「だろうね。さすがに計算処理まではこれでは出来ない。クラウドで繋がっていたんだよ。今の世の中、便利なようで怖いね」
山田はにやにやと笑って、慧の分析を肯定してくれる。
そう、もう一度指摘するが、ゲームがROMに入っているというのは嘘だ。
最初に慧を信じ込ませるためだけの存在だった。
そして、総てはパソコン同士が繋がって行われていただけのこと。相川と研究室のメンバーは、慧がプレイする様子を逐一確認していたというわけである。
どうりで、どうだったかと感想を詳しく聞かないわけだ。相川は大学で会った時には、慧がどこまで進めているのか、しっかり把握していたのだから。
いや、逐一でもないのか。
相川のパソコンに記録され、勝手に人工知能によって分析されていたのだ。ノートパソコンに搭載された人工知能と、相川のパソコンに入っている人工知能がクラウドで繋がり、互いにやり取りすることでゲームは進んでいたのだ。
相川は慧を騙すことさえ成功すれば、あとは人工知能に丸投げできる状態だった。だから、関心が薄かったに違いない。
「けっ、腹が立つ」
相川はゲームを通して人工知能の研究をやっていただけだ。慧は知らず知らずのうちに被験者にされていたというわけである。
被験者がどういうゲームを好むか。そしてどういう展開になれば引き付けられるか。総て人工知能がやっていたのだ。選択肢があまり現れなかったのは、慧が物語そのものを楽しんでいたため、ということになる。
「凄えよな。純粋に、騙されたことを差し引くと、このゲームはマジで凄い」
これは今までにない新しい人工知能なのだ。人間に合わせることが出来る人工知能。おそらく、相川の次の研究テーマなのだろう。今までとは全く異なる、新たな人工知能の可能性だ。
暇を持て余していた慧は、まさに打って付けの被験者だっただろう。ゲームにのめり込み易いし、買収しやすい。適当に誤魔化せば、後は人工知能を試してくれる。のちのち研究室で面倒を見るというのはデメリットだろうが、それ以上にいいデータが取れると見込んでいたはずだ。
「しかしな。この論文に辿り着けるのは、たぶん十人に一人いるかいないか。そういう設定になっているはずだぞ。自らの過去に繋がる内容だからな。これは、そう多くの人に知られたい内容ではないし、簡単に辿り着けるとは思えない」
「そう、ですかねえ」
「そうだ。そして君は純粋に石見翔に同情したからこそ、ここまで辿り着いた。ゲームの枠を超え、ちゃんとした真実に辿り着いた。いや、そもそも真実を知ったところで終わることも出来たはずだ。なのに君は、わざわざ当時の出来事を知る私にまで会いに来た。これは、相川君の意図を追い越したことになると思うぞ。これでは、納得できないかな」
嵌められたという顔をする慧に、山田はにっこりと笑って、そう説得するように言った。
きっと山田も、この論文に対してちゃんと決着を付けたい、そんな気分だったのだろう。しかし、慧はどうにも納得できない。利用されたという気分にしかならない。
「どうして俺がここまでやんなきゃいけねえんだよ。ああもう、普段ならここまでやんないのにさ。どうして相川のためにここまでやっているわけ? 俺、馬鹿過ぎないか?」
「ははっ。だからさ、それは君が昔の相川君にそっくりだったからだよ。惹かれ合うものがあった。それが今回の行動に繋がったんだろう」
「ううん」
「それに、相川君は君に気づいて欲しかったんじゃないかな? 今の君は、自分の適性に気づいていないっていうのかな。それが心配なんだろう。もちろん、相川君は物理の才能もあったよ。しかし、今の人工知能の研究の方が性に合っていた。そういう、適正とは違うことを君はやっていたんじゃないかい?」
その問いには、素直に頷くしかない。た
しかに自分は、適正に合っていないことをやっていた。ただ悠月の選択をなぞっていただけだ。しかしそれをどうして、相川は知ることが出来たのか。それも人工知能の仕業ということか。
人工知能。こいつは一体、どこまでのことが出来るんだろう。
このゲームも凄まじかったが、それ以上の可能性を秘めているってことか。
そもそも、発展途上の分野だ。やりようによっては、もっと凄いものを作り出すことが出来るんだろう。
「ううん」
「ははっ。見事に相川君の策略に嵌っているね。君は今、猛烈にこの人工知能というものに興味を持っている」
「――そうですね」
指摘されると恥ずかしいが、たしかにそのとおり。どこまでも相川が仕組んだとおりだ。
しかし、慧はそれがムカつくので、どうにかならないかと悩む。
というより、こんなことをして相川は何がしたいのか。
人工知能を研究したい奴なんて、あれだけの条件をちらつかせられるのだから、山のように確保出来るだろう。
わざわざ落ちこぼれ学生に目を付けて、やらせるほどでもない。
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