第47話 時代は変わった
空想の産物を、相川は真剣に取り組んでいたわけだ。
だからこそ、翔の心情が丁寧に描写されていたわけである。あの翔というキャラクターは、過去の自分をモデルのしていたのだ。ただし、ゲームと違い、相川の論文は認められなかった。
相川はそれを機に、人工知能へと方向転換することになった。
物理学と決別する道を選んだのだ。
「実はね。今の世の中、これを真剣に探している連中はいるんだよ。つまり、今の世の中だったら、この論文は十分に通用するものなんだ。事実、相川君の論文はここ数年、しっかり他の研究者によって引用されている。十分に評価されているものになっているんだよ」
「ええっ」
空想の産物じゃなかったのか。
そこで慧は仰け反ることになる。
もう、体何が何やらの世界だ。だって、これに関して相川は認められず、物理学に見切りを付けて人工知能の研究に移ったというのに。
くそっ。天才はどこまでも天才だった。
「訳が分からないな」
慧は溜め息とともにそう呟いてしまう。
「まあ、そういうものだよね」
そして山田はしれっと笑ってくれた。
まったく、この教授はかなりの曲者だ。素直に教えてくれる気は一切ないらしい。
「時代の変化、か。ますます過去の相川は翔と同じってことね」
論文によって翻弄された人生。それはぴったり一致する。そして、当時は空想レベルだったという点でも、翔の論文と同じなのだ。
尤も、その論文は太陽光を完全に利用するというものではなく、そういう事が出来る文明が存在するならば、という仮定の話だ。
広大な宇宙にいるはずの、地球外知的生命体。そんな人々が、最終的にどういうものを作り出せるか。物理学の知識を総動員して考えられたものだった。まさにSFの世界。
そんな壮大な妄想の中で、物理学が行き着くところまで行けば、今まで不可能とされていた永久機関も可能になる。そのためには、恒星を利用するのが一番だというわけだ。
ゲームの中で議論されていた内容は、まさにこれと同じ事を、地球でやったらどうなるかという話だった。
「時代は変わったというか、天文学分野が大きく発展したおかげだね。観測技術が当時とは全く違う。そもそも、宇宙論という物理学の分野そのものも、大きく発展して変わった。観測できない時代は、それこそ宇宙論そのものが空想の産物とされていたんだ。その点からして違う。
技術が発展し、相川君が学生だった頃ならば解らなかった、様々なことが解るようになってきている。常識が大きく書き換えられているんだ。そして、同じ発想をした論文が、査読付き雑誌を通過するまでになった。彼は、言うなれば時代を先取りし過ぎていたというところかな」
「はあ」
査読付き雑誌というのは、他の研究者が論文を読み、それが正しい理論か調査したものだけを載せている雑誌のことだ。これに載るのは大変で、専門家を納得させられなければ門前払いだ。
かの有名なネイチャーという科学雑誌も、まさに査読付き雑誌。あそこに載ると大騒ぎになることを考えれば、どれだけ大変かが理解できる。
「それにしても、どうしてこういう発想をしたんだろう」
相川が書いた、そして今ならば認められるもの。
それはダイソン球と呼ばれる、不可思議な構造物だ。そして、ダイソン球というその構造物に関する論文が、二〇一六年に正式に雑誌に載ったという。
では、ダイソン球とは何なのか。それは自らが住む惑星系の中心にある恒星のエネルギーを総て利用するためものだという。恒星の周りに建造物を作り、または完全に覆ってしまって、エネルギーを搾り取るのだという。ここだけ聞くと、確かにSFでしかない。
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