第38話 最悪の展開

「あっ」

 そんなことを考えていたら、急に選択画面が現れた。

 だから、どうしてこのタイミングと、間の悪さに驚いてしまう。きっと相川の性格が捻くれているせいだ。

 選択肢はもちろん、スパコンのある部屋に侵入するかしないか。感知器を考慮した上で考えろということらしい。が、今回の選択肢には、逃げないと時間がなくなるという条件が付いている。

「いやいや。完全に選択肢の意味がないだろ。逃げろって言っちゃってるじゃん。無視だ、無視。そもそも、データは司門が持ってるんじゃないのか」

 慧はバカバカしいと、さっさと侵入しないを選択していた。どう考えても、ここでスパコンのある部屋に入るのはリスクしかない。

 っていうか、そう相川も思ってるよね!?

「次に行こう。ひょっとしたら、データは他から手に入るかもしれないからな」

 選択すると、翔がそう説得する画面に切り替わった。そのとおりと、慧は頷いてしまう。

 細かいところに不満はあるものの、本当にこのゲーム、よく出来ているよな。

「そうだな。ここからしか得られないというわけじゃない」

 宇大はすんなりと納得した。やはり近江が気になるということらしい。たしかに、発想は伊勢の方がヤバいが、実害があるのは近江だ。相手にしないに越したことはない。

「行こう」

「ああ」

 二人は足早にその場を離れた。そして次の階を目指すべく、階段へと急ぐ。が、こういうタイミングで邪魔が入るのが、このゲームのパターンだ。またしても誰かが現れる。

「げっ」

 これは慧の叫びだ。画面の中の翔と宇大は、しまったという顔をしていた。

すっかり忘れていたことだ。どうして救出しなかったのかと、その存在が頭から抜けていたことが悔やまれる展開だ。

「湖夏」

 ようやく翔から漏れたのは、これだけだった。

 そう、目の前には近江でも伊勢でもなく、湖夏がいた。ただし、その背後にはぴったりと常陸が付いている。

 いや、それは正確ではない。湖夏を拘束した状態で常陸が現れたというのが正確だ。後ろ手に手錠を掛けられ、猿轡を噛まされている。まさに人質に取っていますよという、最悪の状態だ。

「ここまで逃げてきたようだけど、そろそろ終わりね」

 常陸が妖艶に笑う。

 たしかに、人質という手段に出られると、途端に逃げ場がなくなるものだ。実際に、翔も宇大も顔色が明らかに悪くなっている。

「ああ。ここでゲームオーバーか」

 慧もこれは駄目だなと覚悟してしまう。しかし、画面上にはまだ、ゲームオーバーの文字は現れない。何か展開があるらしい。

「随分と、解りやすい手段だな」

 翔がぎっと常陸を睨んだ。

 ああ、そう言えばこの二人、反りが合わない感じだったなと慧は思い出す。

 常陸のやり方を、翔は嫌っている節があった。つまり、この人質作戦は非常に翔の神経を逆撫でしていることになる。

「あなたにはこれが丁度いいと思ったんだけど」

 しかも、常陸は挑発するように、さらにイライラさせる言葉を投げつけてくる。

 美人だが性格は最悪だ。慧は一気に気分が萎える。

残念ながら、こういうタイプは苦手だ。どれだけ顔がよくても無理。

「何がだ。湖夏をどうするつもりか、言ってもらおうか」

 翔の声が、一段と低くなる。爆発寸前なのだろう。司門を相手にしている時よりも、明らかに敵意があった。その翔の反応に、湖夏が青い顔をしていた。

 これは何かやらかすな、と慧でも解る。

「こいつ、意外とキレやすいよな」

 天才っていうと、何事も超越していて鷹揚に構えているイメージがあるが、翔はこういうところは普通の若者と変わらない設定になっている。それに親近感を覚えるが、同時に凄くハラハラする。ともかく危なっかしい。

「あら、言う必要あるの」

 しかも、常陸はその性格を知ったうえで挑発しているから、やっぱり性質が悪い。にこにこと笑って、何も出来ない湖夏の髪を撫でている。

「あるね」

「おい」

 さすがに宇大が止めに入った。これ以上は危ないという判断だ。

まさにそのとおり。いつ殴り掛かってもおかしくない。まさに一触即発だ。

「そうそう。大人しく話し合いをしましょう」

「お前がそれを阻害しているんだろうが。それに、話し合ってこちらの言い分を聞くとは思えないが」

 完全にケンカを売っているなと、慧は呆れてしまった。本当にこいつ、伊勢が言うほどに凄い奴なのだろうか。

 まあ、言葉のチョイスはそこらのガキとは違うけど。

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