第37話 不確定要素
「しかし、それ関連の計算しかしていないのも確かだ」
文句を言っていたら、難しい内容は終わったらしい。
やはり、翔の理論をこのスパコンで計算しているという結論のようだ。
「それはそうだな。さすがに熊野もスパコンなしに説得力のあるデータは出せないだろう。太陽光の利用で得られるエネルギー量や、そこに付随する数値というのは簡単に割り出せるだろう。そう考えれば、ここで小牧が何かやっていたのも理解できる」
「ああ、そうだな。彼女はそういう数値をはじき出すのが得意だし」
適当な数値を設定するというのは意外と難しいもんだと、宇大は溜め息を吐くように言う。
なるほど、それで翔はあの梨々にブチ切れていたわけだ。彼女が関与することが、大きく計画を進めることになると知っていたわけか。
「ううむ。となると、翔にはかなり不利なわけだ」
あの伊勢の顔を思い出す展開だ。つまり、利用できるだけの状況はすでに整っている。だからこそ、逃がすつもりは毛頭ないというわけか。
「あの司門も自信満々にやって来ちゃうよなあ」
ムカつくと言えばと、慧はにやにや顔の司門を思い出す。
吹っ飛ばしてスカッとしたはずだが、気になる存在だ。
翔とは何やら因縁があり、それが原因で軍に協力しているらしい。今後の展開次第では最悪の敵となる可能性もある。伊勢や近江より性質が悪そうだ。同じ学者というのも、面倒そうな要因だろう。
「一体どういう揉め事が起これば、軍に売り飛ばしてやろうなんて発想になるんだ?」
その辺りの事情はまだ知らないが、これだけの策を弄するだけの何かがあったわけだ。これは根深い問題だろう。それを考えると、脱出がますます遠のく。
「データを盗むことは出来ないかな」
「随分と大胆な発想だな。が、悪くない」
慧が一人考え込んでいる間に、二人は何やら悪巧みをしていた。データを盗むって、このスパコンからということだよな。どうやってという疑問しかない。
「しかし問題は、警報器があるかないか」
「それだ。ドアを開けたら一発アウトの可能性は否定できない」
とそこで、宇大は自分の首に触れる。正確には、今のところ性能不明の機械にだ。何か気になることがあるのか。
「どうした」
「なあ。翔が部屋を出た時、点滅したって言っていたよな」
「ああ。ひょっとして」
翔はそれで、宇大が何を言いたいか気づいたらしい。思わずドアノブから手を離している。
その行動から解ることは、機械とドアが連動しているのではと考えているということだ。確かにそれならば、あの時だけ光っていた理由が解る。
「なるほど。それならば、一回だけしか反応していない理由になるな。どうして宇大の時はノーカウントなのか不明だけど」
あれはすぐに近江がやって来たからか。それとも、ドアを本で破壊するという異例の事態だったからか。しかし、無視できない指摘だ。
「ひょっとして、ドアのどこかに感知器があるとか」
「感知器か」
慧が気づくとほぼ同時に翔も気づいたようだ。そうだ。ドアに感知器が仕込んであったとすれば、本で破壊した場合反応しなくてもおかしくない。本が上手く電波を遮ったのかもしれないのだ。
「ううん。証明できないだけに、難しいな」
「そうだな。一か八かになる上に、感知されたら終わりだ。それにそろそろ、近江が追って来るかもしれない」
佳広を捕らえ、その後の手続きをしたとしても、それほど時間は掛からないだろう。そもそも、佳広は諦めかけていた。説得には簡単に応じることだろう。
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