第36話 理解不能

「そもそも、これって脱出可能なのか。すでに分岐点として、出来ない状態に陥っているのか」

 上へと進んでいる時点で、脱出から遠のいている気がする。しかも、上には謎の工場やらスパコンやら。まるで謎解きゲームみたいになっている。

 ひょっとして相川の認識ミスなのか。脱出をメインテーマにしているせいで、ゲームの分類をミスった。

 それはあり得る。どう考えても、相川は普段ゲームをやっていない。どういう分類にするのが正しいのか知らないだろう。慧に訊ねられて、咄嗟に答えただけかもしれない。

「となると、考え方が変わるよな」

 今までは脱出するものだと思っていたが、実は謎を解かなければ解決しない。推理ゲームでもあるのだ。

 となると、もう少し真剣に考える必要が出てくる。特に、翔が作ったという理論について。

 そこで慧は、ゲームを一時停止する。ちょっと整理する時間が必要だ。

 今までの会話から、とんでもなく突飛な理論だということは解っている。それと同時に、宇宙空間に関するものだということ。太陽光を最大限に利用するものだということ。

「いや、全然分野外だし。俺、理学部っていっても生物学科だったし。太陽光の利用って、太陽光パネルの発電しか解んないし」

 慧は推理しようとしたが、すぐに無理と放棄した。

 これだけで理解できるとすれば、天文学関係の奴か物理関係の奴だけだろう。

 いくら同じ理系でも、あちらは本物の理系。一方、慧の場合はすでに脱落している理系。

 あちらは数式を巧みに操れる人々。こちらは数式を見ると頭が痛くなる。

 全然ダメだ。

「ううん。真面目に考える必要はないのか。翔自身、空想の産物と抜かすぐらいだからな。うん」

 考え方を転換するかと、慧はSFへと思考をシフトする。

 考えやすいのは、やはりスターウォーズだろうか。とはいえ、あの物語で太陽を丸ごと利用するような話は出てきていない。

 そもそもあれ、エネルギーにしても移動速度に関しても、どれもこれも桁違い。実現不可能レベルのものばかりだ。ところが、翔が考えたのは空想的な部分があるとはいえ、まだ実現可能であるらしい。そこに大きな差がある。

「はあ、無理」

 この方面から考えるのは無理だなと、溜め息が漏れてしまう。

 ともかく、翔の理論は太陽光を総て利用するもの。この点を忘れないようにすれば大丈夫だろう。

 下手な考え休むに似たり。慧は自分の知識のなさに情けなくなる。まさしくこの言葉どおりだろう。

 ということで、ゲームを再開する。二人はこのスパコンが何かを考えることにしたらしい。

「やはり軌道計算に使うということか」

「とはいえ、三体問題がこれで解けるとは思えないがね。カオスになるものだ、どんなに性能のいいコンピュータを用意したところで解は得られない。しかも今回、太陽からの重力が変化することによって考える惑星は三つではない。最低限、五つは考慮しなければならない。無理だろ。どう頑張っても使えるものはなく、解が発散する」

 先ほどの慧の考えを読んでいたかのように、ゲームの中の二人は理系な会話を展開していた。

 なにこれ、嫌がらせかと思うくらいのタイミングだ。

「そうだな。しかも重力の変化だけでなく、太陽自身に何らかの変化が生じる可能性だってある。エネルギーを多く外部に搾取することによって、核融合反応が早まる可能性もあるんだ」

「そうなれば、まさしく佳広が指摘していた通り、ブラックホールの出来上がりだな。何もしなければ太陽は赤色巨星になるはずだが、周辺に他の物質が現われたことで、反応が大きくなってしまう」

 ゲームの会話に完全に置いて行かれるって、かなり虚しい。

 慧はげんなりとしていた。これまでの三年間の間に培われた、理系劣等感を刺激される。

 確実にこいつら、専門は物理だ。確信した。

「くそっ。せめてこっちの頭のレベルに合わせろよな。相川」

 結果、文句は作った相川に還元しておく。

 ゲーム内の会話を考えたのは相川だ。あの男、人工知能が専門なくせに、こんな会話を用意しやがってと、つらつら恨み言を述べる。

 ちょっとすっきりした。

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