第31話 冷静な一面
「宇宙関連の何かで間違いはないだろうけど、どういうものか想像できないというのが気持ち悪いな」
翔も解らないようで、目を凝らしてみるも駄目だった。
接近出来ればヒントを掴めるかもしれないが、この距離から見て何を作っていると断言できるものではない。
「だろうな。ここに俺たちを監禁していたんだ。その理由は、ここを研究拠点にするためだろう。ということは、これもそれに関連したものって考えるべきだよ。これ以上の考察は無駄だろう。先を急ごう」
「ああ」
三人は頷き合うと、さらに先へと進んで行く。
ここが一体何なのか。
単なる十階建ての建物ではないことがはっきりした今、三人の動きはより慎重になる。しかし、これではペンチは見つかりそうにない。
「そう言えばお前、足のやつはどうやって破壊したんだ。その方法でやればいいだろ」
宇広が道具は見つからないようだからと訊ねる。丁度追っ手がいない今、破壊する時間はあるのではないか。
「無理だよ。こっちは頑丈なんだ。壊せるかどうか。時間はたっぷりあったからな、監禁されていた部屋で試している。足の鎖は鉄だったから、ちょっとした工夫で腐食させることが可能だった。でも、この手錠は総てにおいて厳重に作られているんだよ。素材はおそらくタングステン合金だろう。機械なしで壊すのは無理だ」
「なるほど」
すでに色々と実験済みだよと、翔は肩を竦めて答えた。
なるほど、躊躇いなく廊下の角にぶつけていたなと、慧はあの時の行動が無鉄砲でなかったことを知る。足枷はすでに細工済みで簡単に壊せる状態にしてあったわけだ。
翔はいつか逃げる日が来た時のために、自分の拘束具に関して地道に研究していたことになる。あれだけ監視されていたというのに、恐ろしく冷静に物事を進める一面もあるようだ。
「それが論文でも出来ていれば……って、一般の技術力じゃ無理だと解っていて書いているからな。まさか利用されるとは思っていなかったのか」
慧は複雑だよなと溜め息を吐く。
結局、問題の論文を握られていることが、翔がどれだけ優秀でも状況を打破出来ない理由なのだ。
その後も廊下を進んで行くが、どこも似たような作業をしている部屋が続いていた。それにしても、この階は静かだ。これだけ機械が動いているというのに。
「防音は、ここでも施されているってことか」
「だろうな。というより、俺たちの部屋の壁はここのやつをヒントにしたってことかもね」
翔たちも音に気づいたようで、そんな会話をしている。佳広はやはり黙ったままだが、真剣な顔をしていた。そして食い入るように機械を見ている。
「どうした?」
「いや。何だろうな。同じものを作っているわけはないよな」
「えっ?」
「どれも同じ工程に見えたから気になってさ。でも、それならばこうやって部屋を分ける必要はあるんだろうか」
佳広の沈黙に大丈夫かと声を掛けた翔だったが、その指摘ではっとなると、同じように部屋の中へと目を向けた。
どこも似たようなという感覚が正しいのか、それとも全く同じというのが正しいのか。それを見極めようと目を凝らす。
「ううん。微妙に違うみたいだな」
「そうか」
「ああ。だが、ほぼ同じものだな。坂井、良いところに気づいた。これ、おそらく小型の衛星を組み立てているんだ。それを何パターンか作っているみたいだな」
「あっ、うん」
いつものように坂井と呼ぶことに佳広は戸惑ったようだったが、すぐに安心した顔をする。その反応に困ったのは褒めた翔だ。
「どうした?」
「いや。あのまま佳広って呼ばれると、居心地悪かったなって思ってたからさ」
「ああ。悪い。年上を呼び捨てにするのって、俺のポリシーに反するって言っておいたのにな」
「まあ、あの状況ではそれを説明したところで、伊勢を納得はさせられないさ」
気まずい二人の会話に宇大が割って入り、三人はようやく笑った。たしかに翔がそんなポリシーを持っているとしても、あの場で言ったら白々しい限りだ。この場で作った嘘としか思われるだけだ。
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