第30話 一体何だ?

「大きな声を出したら、中にいる奴に気づかれるだろ」

「問題ないよ」

 部屋を見れば解ると、宇大は指差した。そっと翔たちが覗いてみると、なるほど、確かに何の遠慮も要らないことが解った。

「オートメーションか」

「ああ。しかも全行程だぞ。すげえな」

「まるで精密機械工場だな」

 部屋の中には人影はなく、ロボットアームがせっせと作業をしていた。そして何かが急ピッチで仕上がっていく。まさに工場のような流れ作業だ。

 しかも、かなり多くの量を作っている。あれは何だろうか。しかしどれも小さく、宇宙関連の何かと解っていても、何に使うものかがさっぱり解らなかった。

「さすがに中に入るのは危険か。一体何を作っているのか気になるところだけれども」

「危ないだろうな。警報器がないとは言い切れない。ひょっとして、この首の機械もここで作っているのか。というか、これは何だ?」

 今更それを問うのかと、慧は項垂れていた。

 宇大って、鋭いところと抜けているところの差が激しい。しかし、機械に関してはっきり何か知っているわけではない。

 たしかにあれは、何のために付いているのだろう。今のところ、点滅して警報器を鳴らすくらいの機能しか発揮していない。

 首という重要な位置に付いているというのに、それだけの機能しかないのか疑問になる。しかも、部屋から随分と離れているというのに、今は点滅していなかった。どうしてなのか。

「グロ系のゲームだったら、あれが爆弾で殺せるって展開のがあるけど、でも、翔たちを殺さないってのは解っているし、意味不明だな。あえて首に付けることで心理的に圧迫するっていう意味はあるだろうけど」

 慧は目的が解らないと首を捻った。そして画面の中では、翔も首を捻っている。

「そう言えばそうだな。部屋から出たら、こいつが何かしてくるかと思ったが、特に大きな変化はなかったな」

 翔も言われてみればと、自分の首に取り付けられた機械に触れる。そしてまだ、首にも手にも、拘束具が付いたままだという事実を思い出し、顔を顰めた。

 これでは、佳広が伊勢の言葉に従おうとしても仕方がないだろう。説得力がない。

「これ、どこかで外せないかな。せめて手錠くらいは何とかしたいな」

「そうだな。手錠していると走りづらいだろう。どこかにペンチくらいあるかもしれない」

 どういう機能があるか解らない首輪は下手に弄れない。が、手錠くらいは外しても大丈夫だろう。足枷を壊しても問題なかったことから、この二つに何か仕掛けがあるわけではない。三人は何か使えるものはないかと、次の部屋へと進み始めた。

「ここも、似たような感じか」

「ああ。一体この階で何をやっているんだ? 本当に実験に必要なものを作っているのか?」

「確かに、これだけの量となると、実験に必要な何かという説は怪しくなるか。軍が翔の理論に乗ったというのに、関係していそうだな」

 あれほど軍に靡こうとしていた佳広だったが、その異様さの前に思い留まったようだ。

 なるほど、この階の捜索が選択肢になっていたわけだと、慧も納得する。

 単純に佳広に考える時間を与えないだけでなく、ヒントもここに仕掛けられていたのだ。

 まったく、もうちょっと解りやすく作ってほしいぜ。

「数多く使っているとなると、軍事工場かなって思うけど、そんなわけないよな。火薬を扱っているはずはないんだよ。明らかに普通の建物の一角を利用しているわけだし、あの感じからして精密機械だろうし」

 しかも何か小さなものだ。まさしく精密機械。密閉された部屋、そこで機械の中でロボットアームが動き、何かを組み立てていく。

 先ほどもそうだった。パソコンの集積回路を作っている工場を思い浮かべれば、それで間違いない。作業も似たような感じだ。

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