第27話 モデルが身近すぎ

「そうだな。大部分は俺が作ったから、その推理は間違っていないよ。まあ、細かな部分が小宮君とか、現在四年の井上美香いのうえみかとかがやってるね。ああいう細かなCGは彼女たちの得意分野だったんだよ。あれを作るまで知らなかったけどさ。任せていたらどんどんリアルなものが出来上がっていたよ」

 要するに、マニアックな集団によるガチな作り込みということらしい。

 そりゃあ、下手なプロ集団よりも凄いものを作り出すこともあるだろう。慧は納得してしまった。

「そうそう。それぞれに拘りがあるもんだから、大変だよ。このくらいやって当然って、どこまでが当然なのか、俺には判断できないところだけど」

 珍しく相川が愚痴を言った。

 といっても、知り合って三日。こうして顔を突き合わしている時間は、相川の作ったゲームより短い。

「あれって、どうなればクリアなんですか」

「それ、聞いてしまったら面白くないでしょ。あえて先が読めないようにしてあるのに」

「ま、まあ」

 たしかにそうだけど、本当にゲームの内容に関して語らないなと、慧は不満だ。ちょっとくらいヒントがあってもいいのではないか。

 っていうか、自分で作ったくせに、興味なさすぎじゃないか。

「まあまあ。ああ、丁度いいところに来たな。彼女が井上さん。横はここの助教の芝山君」

 相川は研究室のドアを開けて入って来た二人を慧に紹介した。井上美香はきりっとした感じの、あのゲームで言えば常陸のような雰囲気、助教の芝山太陽しばやまたいようは嫌味な伊勢にそっくりだと言えば、その風貌の伝達に問題ない。

「ああ。協力してくれている学生さん」

「そうだ。ついでに来年から我々の仲間入りという、貴重な人材だ。君たちの後輩になるんだぞ」

「まあ。じゃあ、いつ歓迎会をやるんですか」

 冷たい芝山と違い、美香はそんなことを訊いてきた。

 歓迎会。嬉しいような怖いような、そんな気がする。

 だって今、常陸と伊勢が目の前にいるようなものだ。八つ裂きにされそうと思ってしまう。

「まだやらないよ。彼が無事、ゲームをクリアできたらね」

「ああ。そうですよね」

 相川がゲームが優先と言うと、美香はあっさり引き下がった。

 たしかに今、慧としてもゲームを優先したいところだ。気になるところで止まっている。

「じゃあ、無駄話はここまで。また報告してくれ」

 相川は一方的に会話を打ち切ると、自分のパソコンを操作し始めたのだった。




「今日も疲れた。っていうか、現実にいる奴、しかもあの研究室のメンバーがモデルってのがな。ちょっと気が重いよ。今後、どういう顔をしてお付き合いすればいいんだか」

 それも軍部の方というのに、慧は思い切り溜め息を吐き出していた。

 これからあの二人と付き合っていくにあたり、ゲームのイメージを払拭できるだろうか。心配だ。すでに変な先入観を持ってしまっている。

「まあ、いいか。クリアすれば印象が変わるだろうし」

 何といっても、その軍から逃げるゲームだ。クリアすれば清々するだろうから、嫌味だろうが、怖いグラマーなお姉さんだろうと関係なくなる。

 そう信じたい。

「さて」

 帰宅してすぐゲーム。実家だったら怒られるが、今は一人暮らし。大学をサボるとなぜかバレるが、日常生活がぐだぐだでもバレない。そういうものだ。

「たしか、芝山さんそっくりの伊勢から逃げているところだったな」

 関係ないと思いつつも、あまりにもそっくりで、どうにも据わりの悪さは感じるものだ。

 慧は微妙な思いになりつつ、ゲームを再開させた。

「ああ、そうか」

 すぐに出てきたのは走っている場面で、伊勢の姿はなかった。そう言えば、懐に飛び込むを選択し、そのまま伊勢の横を走り抜けた所だった。

「このまま上に行くしかないな」

「そうだな」

 しばらく走っていると、角のところに階段が現れた。やはり長い廊下の端には階段があったのだ。

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