第26話 断言するな

「俺、めっちゃくちゃ情けないです。幼馴染みで彼女だった子の、おんぶに抱っこでここまで生きてきたなんて」

「まあ、そうだろうね」

 そんなことが朝あったと相川に話したところ、心配されて当然だろうとあっさりと頷かれてしまった。

 しかし、そうすぐに肯定されると困る。そうだろうと断言されると困る。いや、事実なのだが情けなさが増す。

 お前に俺の何が解ると言いたかったが、相手は教授だ。こんな情けない学生を見るのは初めてではないだろう。

 断言できるだけの判断材料を持っている。

 それに気づいて、ますます落ち込んでしまった。

「俺って、優柔不断だったんだなあ。いや、それ以前に、自力で何も決めていなかったんだなあ。あんなにゲームはやるのに」

「ゲームをやることと決断力に相関関係はないだろ」

「うっ。そうだけど。そうですけどね」

 ちょっとはフォローしてくれ。

 こっちは大ダメージなんだよ。

 心に馬鹿でかい傷を負ってるんだよ!

「それより、ちゃんと進めてくれているんだな」

「ああ。はい」

 急に確認するなと、慧は頷いた。

 現在昼休みの時間帯。慧は呆然としつつも学食で安いご飯をと考えていたところに、相川からメールで呼び出しがあったのだ。

 曰く、研究室に馴染んでおけば、三年間のロスなんて気にならなくなる。そんな訳の分からない理由からだった。

 なんでやねんと心の中でツッコミつつ、今、一人でいるのも辛い。そこで、生協で安い弁当を購入し――とはいえ、同じ値段で学食の方が出来立てて美味しいのだが――相川の研究室で昼食となったのだった。

「どう? 面白いかな」

「ええ。意外にも」

 いくらか言いたいことはあったが、慧は面白いと頷いていた。いくつか不満はあるものの、でも、よく考えると、それを消してしまったら今感じている楽しさが消えるなと思ったからだ。

 あの何とも言えないタイミングの選択肢、それにどこまでもリアリティを追求した画像。これは新たなゲームのジャンルなのではないか。そう思ったのだ。

「新しいジャンル。そいつは凄い。それ、ちゃんとレポートに書いて提出してくれ」

「ええっ」

「俺の受け持っている講義、その二単位を進呈しよう」

「うっ、やります」

 素直に感想を述べただけでレポート提出を命じられた慧は、不満を握りつぶされただけでなく、しっかり買収されることになった。が、しかし、ゲームの感想で二単位というのは美味しい話だ。

「そう言えば、あれの登場キャラってモデルがいるんですか。妙にリアルですけど」

「ああ、それはもちろん。現実にいる人を参考にしているよ。人の癖や仕草って、そうそう思いつかないからね。まあ、そういう特徴を探し出したのは、俺じゃなくてコンピュータだけどね」

「ツイッターの解析みたいなやつですか」

「まあね」

 自分もやられたんだよなと、慧は遠い目をしてしまった。ということは、他にも勝手に分析された人がいるわけだ。

「ゲームに登場させる以上は、許可は取ってあるよ。俺も入っている」

「あ、宇大ですよね」

「即答かよ」

 あまりにすぐ、それも躊躇いなく言った慧に、相川から鋭いツッコミがあった。

 こうやってツッコミを入れることもあるのかと、新たな発見だ。

「でも、宇大でしょ」

「まあ、否定はしないね。彼の大部分は俺だ。適当な部分があるし、片付けも出来ないし」

「ああ。あの本だらけの牢屋ですね」

「あれね、我が家が参考にされた。小宮君も酷いものだ」

「へえ」

 ああいう描写、あの彩乃がやっているのかと、ちょっとした驚きだった。てっきり男だけで作っているのかと思ったが、研究室には男女ともいるのだから、彩乃が関わっていないと考えるのが不自然だった。

 しかしあのゲーム、全体的に男臭さはあるが。

 ノリが少年漫画的っていうか。

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