第25話 情けない

ええっとと、慧は頭を掻くが、どういう対応をすればいいのか、解らない。

幼馴染みで何となく付き合っていたけど、こうやって思い遣られる場面に、どう対処するのが正しいのか、解らなかった。

 そして気づく。

 いつも自分は、彼女の後を追い掛けてばかりだったのだと。

 それが今、初めて変わるのだ。

「頑張りなさいよ。学部が変わったら、もう手助けできないし」

「え、うん」

 が、そんな戸惑いは、すぐに終わってしまった。

 そうだ。学部が変わるイコール、手助けしてくれる人がいなくなるのだ。ただ、補習をしてくれる彩乃がいるし、相川の研究室に入ることが確定しているから、困ることはないだろう。

 でも、何だか心許ない。自転車の補助輪を外されたような感覚、というのに似ているかもしれない。

 本当に、今までの自分は悠月に頼りっぱなしだったのだ。それに気づき、情けなくなる。

 ちらりと脳裏に、自らの信念だけで進む翔の姿が浮かぶ。

 彼のようには生きられない。でも、今のままでは情けない。

 初めて、自分のことを情けないと痛感した。

「あと何か月かだけだね」

「そう、だな」

 急にしんみりとしてしまって、慧はどうしたものかと悩む。

 何か言わなければならないのに、いつもならば言い訳が山ほど出てくるというのに、こんな時に限って何も出て来ない。

 もう少しで、こうやって同じ教室にいることもなくなるというのに。

 そうだ。相川は後期から変われるように手続きすると言っていた。一緒にいられる時間は、あと二か月ほどしかない。

 いつものように怒鳴ってくれた方が、説教してくれた方がいいのに、どうして今日はこんな調子なのか。そうすれば、ムキになって反論して、何か言えたはずなのに。

 考えても答えは見つからないし、現実世界に選択肢はないので、慧は諦めて訊ねていた。

「あのさ。何で怒んないの?」

「だって、あんたが進路を自分で決めるの、初めてでしょ。そりゃあ、驚いたけど、応援するのが当たり前じゃない」

「――」

 予想外の答えが返って来て、実際は相川が勝手にやったなんて言えず、慧は反応に困ってしまった。

「だからさ。ちゃんと頑張りなさいよ」

「う、うん」

 気づかれていたんだと、慧は情けなくて唇を噛む。

 自ら選択していない事実を、悠月はとっくの昔に気づいていたのだ。

 そしてそれを、悠月は口には出さないが、駄目だと思っていたのだ。でも、指摘したところで慧が聞く耳を持つはずもなく、自分で気づくのを待っていてくれたのだ。

 自分の人生なのに、私と同じでいいわけ?

 何度、そう彼女は問いたかったことだろうか。

 どうして選択して来なかったのかという問いは、無意味だろう。

 要するに、真剣に考えたことがないのだ。悠月に選択を任せ、自分は楽していただけだ。いざとなったら悠月が選択したことだからと、言い訳し続けていただけだった。

 自分の甘えの大きさを実感して、呆然としてしまう。

 横にいる優秀な幼馴染みに頼りっぱなし。自分では何もしていなかった。

 いっちょ前のことを言いながら、何も出来ていない。

 また、翔の顔が脳裏をちらつく。

「悪い。ちょっと」

 何だかそのまま悠月と一緒にいるのが気まずくなり、慧は教室を飛び出していた。

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