第24話 重症だね

「おっ」

 そんな感じで怒りのボルテージを上げていたら、選択画面が現れていた。唐突に出てくるので、どこで選択が用意されているか読めないのが困りどころだ。

「ん?」

 しかし、現われた選択肢に首を捻ってしまう。

 さすがは大学教授の作った代物。何かが変だ。しかし、プロとは違うところに着目していると、好意的に考えるべきだろうかと、そう考えが変わったのは、選択肢があまりに突飛で面白かったからだ。

「なるほど。相手の獲物は銃。近江のように好き勝手に出来ないからか」

 選択肢はこうだ。

 伊勢の懐に飛び込むか、後ろに下がって間合いを取るか。

 どちらにしろ、銃の間合いから出るためだ。しかし、相手は傷つけたくないという前提があるから

「懐に飛び込んだ方が、下手に撃てない」

 ということで、慧は迷わず懐に飛び込むを選択した。すると、画面が大きく揺れた。

 こういうところも、リアリティを生んでいるよなと、もうすっかり慣れてきた慧は思っていた。すっかり駄目出しが頭から抜けている。

「おい!」

「振り返るな! 進め!!」

 止めようとする伊勢の声と、翔の大声が同時に響く。ようやく画面の揺れが戻り、翔たちが走っている姿が映し出された。

 次に伊勢はと、翔が僅かに振り向いた時に映ったが、呆れたように立ち尽くしていた。そして、誰かに無線で連絡を入れているようだ。自分が追うより、攻撃可能な誰かを呼んだ方が早いと判断したらしい。

「あいつがこのまま追ってくることはなさそうだな」

「みたいだな。攻撃範囲が狭くなっているから、か」

「ああ。ということは」

「近江が来るだろうな」

 翔と宇大がそんな会話をしている。佳広は複雑な顔をしたままだった。

 まだ、さっきの指摘を引きずっているということか。さっさと諦めていたことから考えても、佳広自身が周囲より劣っている事実に気づいているということだろうか。

「うわあ、辛いな」

 そんな感想を漏らしていた慧だが、不意に大きな音が鳴ってびくっと飛び上がることになった。スマホのアラームが鳴ったのだ。

「しまった」

 気づけば朝。大学に行くのを忘れないため、ちゃんとアラームを設定しておいてよかったと、そんなことを思うも、名残惜しいのも事実。

 今、めちゃくちゃいいところなのに。

「くそっ。帰って来てすぐやろう」

 しかし、ゲームのためにサボるというのは、どういうわけか出来なかった。

 小さい頃からゲームばかりしていた慧は、両親からきつく学校をさぼってまでやったらどうなるかを叩き込まれている。すなわち、二度と出来ないようになる。

 小学生の時はゲーム機を取り上げられただけでなく、翌日の不燃ごみの日に捨てられるということを経験。中学の時はスマホのデータを全消しされた。

「俺ってよく捻くれなかったよな」

 そこまで思い出して、両親に対して反発していない自分を褒める慧だ。

 逆に言えば、こういう性格だから、非行に走っていないとも言えた。自分が悪いことを自覚している。しかし、その代わりに休日は延々とゲームをやってしまい、結果、悠月との約束を破ったりもする。

「はあ。悲しい」

 そう言いつつ、ゲームを止めて大学に行く準備を始めたのだった。




「大丈夫かい。顔色悪いよ」

 二日ぶりにあった悠月は、開口一番、そう言ってきた。慧は考えるまでもなく、そうだろうなと頷いた。

「ちょっと寝不足で」

「またゲーム。懲りないね」

「まあね」

 悠月が呆れ返るのにも、慧はそうだねと頷くしかない。実際、ゲームをやっていたわけで否定できないからだ。

「重症よね。自覚しているのに止められないなんて」

「麻薬みたいに言うなよ」

「事実でしょ。最近はゲーム依存症って病気に認定されたし」

 と、そこまではいつも通りの会話だった。しかし、急に悠月の顔が真剣なものになる。

「どうし――」

「あんた、学部を変更するんだって」

「えっ」

「相川先生が言ってたわよ。この間、会った時に教えてくれたの。特例で移動することになったって。まあ、ゲームに関心のあるあんただから、コンピュータ関係の工学部の方が、合ってはいるんだろうけど。急だね」

 悠月はそう言いつつ、寂しそうな顔をした。

 これは予想外の展開だ。

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