第23話 めっちゃ腹立つ
たしかに軍人が言っては元も子もない。
危ない近江によると、内閣総理大臣まで話が通っていると言わなかったか。
となると、これはちゃんとした国家プロジェクトだぞ。戦時中のように誤魔化しの効く話じゃないだろう。
それなのにいいのか、予算を別のことに使えなんて言っちゃって。ひょっとして軍も、実現不可能だと気づいているのか?
端から杜撰な計画を、こいつらは無理矢理に通したことになる。
何だかますますきな臭い話になってきたぞ。
「いいんじゃないですか。意見というのはそれぞれ持っているものです。先ほどの意見が出てくるように、私もこの計画そのものには反対ですけどね。でも、やらないという選択肢はないんです。これでも軍人ですから上の決定には従いますよ。それに、この計画は利用価値は大きいと思います。石見翔という科学者込みでね」
そこで伊勢の顔から表情が抜ける。
マジになったのだ。
ここで翔を捕まえる。それに変更はないというわけか。
「どうして俺が必要なんだ? 計画が首相まで通っているというのならば、もう俺は必要ないだろ」
「天才にありがちな、自分をちゃんと評価していないってヤツですね。ご自分の周りに凄い人が多いからって、全体が凄いわけじゃないんですよ。気づいていますか。例えば、その助手の彼みたいに」
すっと、伊勢は佳広を指差した。
たしかにこの中では、劣る感じがする。しかしそれを、本人がいる前で指摘するか。
紳士的と言いながら腹黒い。
当然、指摘された佳広も顔色が悪かった。
「人にはそれぞれ役割というものがある。坂井には、佳広には大人としての意見を求めているんだ。彼が劣っていることにはならない」
それに対し、翔はすぐに反論した。しかも、別に分けているわけではないんだと示すように、このタイミングで下の名前を呼ぶなんて。
ううん、俺には無理だなと、またしても慧は感心する。
よくできた人物だ。イケメンで性格良くって、さらに天才科学者。向かうところ敵なしだ。
だが、それは同時に、一緒にいると劣等感に苛まれそうなタイプでもある。
完璧すぎて自分の欠点が目に付いてしまう。ひょっとして佳広も、同じ思いをしているのだろうか。
「それはそれは。失礼しました。しかし今は坂井氏の才能について議論している場合ではありません。あなたについてです。いいですか。現時点で、あなたの名前だけというと語弊がありますが、あなたの論文だけで莫大な金が手に入るんです。熊野君と組めば、より一層凄いことになるでしょうね。そういう説得力に関しては、彼の方が上ですから」
「あんた、ただの軍人って感じではないな。しかも、それなりに科学的知識を持っている。一体何者なんだ?」
「お褒めに預かり光栄ですよ。しかし今は、私の科学知識に関して議論している場合ではないです。それに軍服を纏っている以上、私は軍人です。さっさと、サインすべきですよ」
そこで伊勢はついに銃に手を掛けた。
さすがに三人の顔色が一気に悪くなる。しかし、一気に銃を抜くことはなく、伊勢はそこでにこりと笑った。
「殺しはしないというのは、近江からも言われていますよね。あなたたちが死んでは元も来ない。もちろん、研究に支障のあるようなこともダメです。天才科学者として名高い、石見翔が率先してやっているというのを売りにしていますからね。
こちらとしては、条件が厳しいんですよね。狙えるのは足首だけ。ちょっとのミスも許されない。ということで、撃つことはしたくないんです。自由になるとか、国民に迷惑がかかるだとか、そういう青臭いこと、さっさと諦めてください」
「腹立つ」
慧は思わず叫んでいた。
伊勢のねちっこい性格に、虫唾が走るというか気持ち悪いというか、取り敢えずムカつく。
要するに、逃げ道はないと断言しているわけだ。そして、自分たちは手出しできないから諦めろと言っている。
いやはや、こんな嫌味な奴、ゲームであってもなかなかお目に掛かれない。
ついでに、現実にいるようなもどかしさを味あわせてくれるなんて。
これ、本当にクリア出来るのか?
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