第22話 実感するリアリティ

「不利益も何も、あんな計画を見過ごせというのか。もちろん、それを論文にしたことに責任は感じている。だが、あくまで理論として考えられるというレベルのものだ。現実的なことを考慮していない、児戯に等しい。それを実際に莫大な予算を使ってやることに、どうして同意できる」

 揺らぎそうな佳広を説得するためだろう。翔は声を鋭くして言った。

 児戯とはまた、凄い言い切りだ。

 自分の成果を、しかもそれなりに認められているはずの成果を、そうあっさりと貶めることが出来るのが凄い。

 慧は、仮にある程度の評価を受けているのならば、ここまで言い切るのは自分には無理だなと、思わず首を竦める。

 翔の真っ直ぐな性格が、ちょっと羨ましくて、同時に怖かった。

 そして、それは軍も抱いている感情だろう。だからこそ、徹底してこの男を管理したいと感じているはずだ。

「そうそう。あんたたちに掛かると、冗談じゃ済まされなくなるよね。まあ、太陽エネルギーを丸ごと使うために、太陽を丸ごと覆ってしまうなんて、理論が完璧だろうとそう簡単に出来ることじゃない。

 でも、そのために莫大な金と人間を使うことは可能だ。国を疲弊させ、多くの人間を犠牲にしてって、そんなのに同意しろってのが無理だ。エネルギー問題の解決どころか、遠ざかる一方だぞ。あまりに無駄が多い」

 適当そうな宇大が、翔の主張に援護射撃をする。

 なるほど、翔たちが空想だとかあり得ないという理由が解ってきた。

 そもそもが滅茶苦茶な計画なのだ。太陽のエネルギーを余すことなく使うためには、太陽を丸ごと総て内包できる建造物が必要だという計画らしい。

 そんなもの、一体どうやって作ろうというのか。

「まあ、SFの世界では簡単なんだろうけどな」

 具体的に考えると無理なんだろうなと納得する。

 それにしても、さすが、リアリティを追求したゲームだ。これを、あの変人の相川が作っているというのが複雑だが、無理なことは無理という設定は好ましい。

 魔法を使って何でもアリというのは、正直言って慧の好みではなかった。そういうゲームは、面白いとは思うものの極力やらない。

 悲しいかな、腐っても考え方は理系だった。突飛なことには、特に物理法則や化学的な反応としてあり得ないものには、ないなとツッコミを入れてしまう。そこで冷めてしまうのだ。

「そこまで解っているとは、さすがは理論の提唱者たちを騙すことは出来ませんね。ええ。あの理論をそのままやるのは無理がありますよ。でも、日本が先にやったということは、大事だったりするんです」

 伊勢はそこで厭味ったらしく笑う。

 何だか話がどんどん現実臭くなってきた。

 要するにあれだ。今も有人飛行がどうとか、月面利用はどうするとか、火星に最初に行くのはどうとか、そういうことに国の威信が掛かっているのと同じってわけだ。

「ふん。くだらん」

 言うと思った。

 徐々に翔の性格に慣れてきた慧は、呆れ返ってしまう。

 翔は聞く耳はないと、ばっさりだ。しかし伊勢はそれでめげなかった。それどころか笑顔を崩すことさえない。

「おやおや。聞いておくものだと思いますよ。だって、そうすれば科学予算は今の倍以上になるんです。金があって困ることはありません。そちらだってやりたい放題でしょ」

「そんなわけあるか!」

 翔が怒鳴る。

 相変わらず、激高しやすい天才様だ。

 それにしても、どこまで現実っぽいんだ。ここまで来るとリアリティのレベルではなくなってくる。

 ゲームに仮託した政治批判だ。さすが相川。日頃からこういう点にご不満なんだなと、慧は勝手に納得していた。

「大いにありますよ。大体ね、第二次世界大戦の時だって、科学者はちゃっかり予算を流用していたというじゃないですか。核兵器の開発なんて、ウラン鉱を持たない日本では土台無理。でも、軍部は開発しろと言ってきた。そこで、やっている体で実際は基礎研究に予算を回すっていうことをしていたらしいですよ。それと同じ方法でやればいいと思うんですよね」

「ちょっと待て。軍人の意見とは思えないな」

 伊勢の懐柔しようとする意見に対し、宇大は冷たい。

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