第19話 危険な鬼ごっこ

「逃げるったって。限度があるだろ。ここに関して何も解らないんだぞ」

 引っ張られて逃げることになった宇大だが、対案を出せと煩い。たしかに逃げ続けるというのは無理だろう。明らかに軍人である近江に有利な状況だ。

「煩いな。ともかく、上の階に出るぞ」

「でもさ、この状況からして絶対に待ち伏せされてるぞ」

 階段を上り始めたところで、佳広が余計なことを言ってくれる。

 たしかに、近江が現れるまでに時間があった。それはつまり、捕まえる算段を整えていたということだ。そうなると、一階の出入り口は使えない。

「一階より上に行くしかないな」

 ともかく、近江から距離を取るしかないと、翔は提案する。

 このまま危険な鬼ごっこをやっている場合ではない。しかも捕まったら足を斬られるかもしれないという、最悪の条件が付いている。その提案は当然だった。

「となると、隠れられるところを探すってことだな」

 そういうのは得意だと、なぜか自信満々な宇大だ。

 こいつを見ていると、相川を思い出すのは何故だろう。俗に言う、作った奴に似るってことか。

 しかし、どうして主人公の翔ではなく、この変な宇大に思い入れがあるのか。そんなに重要なキャラなのだろうか。

 そこは謎だが、思い入れがあるのは変人同士だからだ、と考えると納得できるところもある。部屋が汚いという共通項もあることだし。

 慧がそんなことを考えている間に、三人は躊躇いなく二階へと駆け上がる。それに対し、近江が報告する声が後ろから聞こえてきた。

「一階を通過。上階へ向かっている」

 やはり一階の入り口を封鎖し、そこで捕まえるつもりだったらしい。しかし、上に逃げたところで、脱出できる当てはない。

「この後、どうするんだ。隠れたとしてだ、ずっとは無理だぞ。ここは奴らのテリトリーなんだからな」

「馬鹿、一気に考えられるか。一先ず考えるために隠れるんだよ。走りながらまともな計画が考えられるか」

 弱気な佳広の言葉に、宇大が一喝した。

 宇大の言い分は一理ある。近江を気にしながら考えるのは無理だろう。しかし、先ほどは知りながら対案を出せと言った奴の言葉とは思えない。危険度が上がったと判断しているということか。

「もう一階上に行こう」

 近江が指示を聞いているせいで遅くなっている今がチャンスと、翔がそう言う。今のうちに引き離そうというわけだ。

「そうだな」

「ってここも、選択じゃねえのか」

 ゲームをやっているのか、こういうドラマを見ているのか、解らなくなってくるなと、慧はぼやきつつジュースを飲んだ。

 そんなことを言いつつ、ずっとやっているなと、ジュースが異様に美味しく感じて気づく。

「今何時、って、マジか。もう三時になってる」

 ふと時計を見ると、いつの間にか深夜三時。このままだと三日連続の徹ゲーとなりかねない。

「ううん、でも」

 ここで止めると、すごく気になって寝られない。そういう自分の性格はよく解っている。

 ということで、もうちょっと進めることにした。画面に目を戻すと、翔たちは二階に到着していた。

「どっちに行く」

 と、丁度よく選択画面。

 こういうどうでもいいところに選択画面があるところが、素人の作ったゲームらしいところか。相川が日頃からゲームをするとは思えないので、それが可笑しいことにも気づかなかったのだろう。

 朝、会うことがあったら指摘しておこう。尤も、相川が素直に聞くとは思えないけれど。

「こうなると、どっちでもいいんだよな」

 右か左か。その選択だが、二階なんて近江が歩いていた画像の中になかったはずだ。ということは、どっちに行っても同じはず。

「じゃあ、取り敢えず右かな」

 この場合、距離の長さを気にする必要もなさそうだ。というより、丹波が反対側から現れたということは、向こうにも階段があるはず。それを確認しておくに越したことはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る