第18話 厄介な敵
こういう場合、不都合なことは考えないものだと慧も思ってしまう。しかも、それは過去の様々な失敗が物語っている。
具体的な例を挙げるとすれば、東日本大震災の原発事故だろう。あの時、政府や電力会社は想定外という言葉を繰り返していた。
「重大事故が起こるまで無視してるってヤツだな」
自分と同じ意見を述べる宇大に、うんうんと頷く慧だ。
すっかりゲームにのめり込んでいる。
「なんにしろ、ここにはどれだけ無謀なことも出来るだけの、予算も権力もある。走り出したら止まらない。俺たちを捕まえていたのも、不都合な指摘を潰すためというのが大きいはずだ。軍に面と向ってケンカ売る奴、俺たち以外にいないだろうからな」
「だな」
しかし、どうすると、宇大は冷静に訊き返す。
たしかに、問題点が解ったとしてどうすればいいか。それを考えなければならない。
どこかに直談判でもするのか。だが、軍を相手にケンカしてくれるところはないと、彼らが断言している。ということは、抜け道はないのではないか。
「そう。それが問題だ。この話が一体どこまで通っているのか。これでも大きく対応が変わってくるぞ」
「対応なんて無理ですよ。話は一番上、内閣総理大臣まで通っているんですからね」
「――」
突如割って入って来た第三者の声に、全員が息を詰める。追手が全く来ないと踏んでいた三人は驚くしかない。
「おやおや。自分たちが今、どういう立場か、忘れていたわけではないですよね」
やって来たのは丹波ではない、別の軍服姿の男だった。
慧はその顔を見て、面倒臭そうな奴と思った。理屈っぽい顔というか、取り敢えず、面倒なタイプというのが顔で解る。
「
よりによってと、宇大が舌打ちした。
やはり面倒ならしい。
その近江が腰に手を当てたと思うと、三人がざっと下がった。
何だと画面に目を凝らしてみると、なんと近江は腰のベルト部分に日本刀を差している。
恐ろしく時代錯誤だ。宇宙だ太陽系だという話をしていたところに、急に日本刀を持った奴が出てくるなんて。しかし、そのおかげで余計に怖さを感じる。理屈が通じない相手というのを印象付けられる。
顔の印象と真逆というのが納得出来ないところだけれども、ともかくヤバい。
「私が手加減しないことは知ってますね。この計画の重要人物、逃げられると困ります。とはいえ、必要なのはその頭脳。足の一本くらい無くなっても、どうってことないでしょう」
そんなことを言いながら刀を抜くんだから、現実世界にいなくてよかったと慧は思う。が、翔たちには大問題だ。
「どうしてここで選択画面に切り替わらないんだ」
じりじり迫ってくる近江と、後退る三人。
これって捕まるってことか。やっぱりバッドエンドなのか。慧はハラハラとしながらも、半ば諦めた気持ちになってしまう。
「うしっ。ここは俺に任せろ」
しかし、覚悟を決めたように宇大が前に出る。が、何をどう任せろというのか。さっきは大量の本という武器があったが、今は何もない。
「任せろって」
「これでも空手二級だ」
「――」
いやそれ、全然勝てる要素がないだろ。
黒帯だったらなと、慧は呆れるしかない。
とはいえ、空手でどうにかなる相手か? そんなもの、日本刀相手に何も出来ないに等しいではないか。
もちろん、翔と佳広も呆れていた。と、そこで選択画面。
「いやいや。戦力にならない奴を一人残しても仕方ないだろ。捨て駒にするにしても、ここでは無理だろ」
現れた選択画面に、相川って変なところで選択肢を作るよなと呆れていた。これ、二択に見せかけて一択しかない。
どういう選択かといえば、宇大に任せるか、三人で逃げるかだ。
まったく、変な選択肢を作りやがって。
「おっと」
ツッコミついでに喉が渇いたのでジュースを取りに行く。といっても、一人暮らしの家なので、冷蔵庫まで三歩。取って戻ってくるのに一分も掛からない。そして喉を潤してから選択肢を押す。
「馬鹿か。逃げるぞ!」
という、当然の翔の言葉とともに画面が動き出す。三人が走り出すと、当然ながら近江が追い掛けてきた。しかも刀は抜き身のままだ。
捕まったら最後。本格的な脱出ゲームとなってくる。
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