第14話 完全にハマった

 おそらく、翔は太陽光を利用しての永久機関を面白半分で考え、どういうわけか論文にした。

 それをあの司門が軍に持ち込み、軍はその理論を本気にした、という流れらしい。

「助手の坂井がちゃん空想だと考えていてくれて、正直、助かったよ。地下の部屋に独りで、それも拘束された状態でいると、俺は自分の理論が正しいのかと、危うく信じそうになっていた。ここまでされるほどのものを作ってしまったのだろうかって。独りで考えることの怖さだな」

「翔」

 佳広は苦労したんだなと、その格好を改めて見て思ったようだ。

 あちこち拘束されている。それは翔だけだ。横を走る佳広は、首輪も手錠もされていない。

 慧は、こいつって役に立っているのかなと、失礼なことを思ってしまう。

 翔は感謝していたが、なんだか胡散臭い。それに二人の呼び方の差も、ちょっと気になるところだ。

 まあ、見た感じ佳広は年上。翔なりに気を遣っているということだろう。

「こっちだ」

「話し声がしたぞ」

 と、そんなことを考えていると、追手の声がした。

 そうだ。二人は逃走中。のんびりと何が正しいかを議論している場合ではない。

「くそっ。他の奴らのことも気になるし、どっちに行けばいい」

 そこで選択画面が登場した。階段を降りるか上るか。

 降りてもいいことはないだろうと、慧は思う。他の奴が翔より厳重に拘束されたり、監視されていないのは明らかだ。

 ということは、同じ階にいるか上の階にいると考えるのが妥当だろう。

「上、と」

 慧はそう考えてから上を押した。すると画面が進み始める。

 はあはあと、二人が階段を上がる度に苦しい呼吸をしているのが、リアルだった。こっちまで階段ダッシュをしている気分になる。

「ここの構造は解るか。俺は気づいたら、あの鉄格子が付いた部屋にいた。身体もこの状態だった。家で寝ていたところを襲われたんだよ」

 階段を上がり切り、角に身を潜めた翔が訊く。この先のルートを確認したいらしい。

 それにしても、いきなり誘拐か。

 翔が反発するのも当然というところだろうが、それまでにも軍は説得しようとしたのだろう。そうでなければ、いきなり寝込みを襲うなんてことはしないはずだ。

 仮にも相手は利用したい論文を書いた、重要な人物だ。ここに拘束するまでは、それこそ金や名誉、女なんかで釣ったことだろう。で、それでますます翔が頑なな態度になったというところか。

 慧は相当頑固っぽいもんなと、真剣な翔の顔を複雑な気持ちで見つめてしまう。

 頭はいいかもしれないが、世渡りが下手なんだ。

「外観は解るけど、中はほとんど知らないな。俺はここに翔がいるって言われて来たからな。だから、一階と、応接室だけは知っている。そこで飲んだコーヒーに睡眠薬が混ざっていて、気づいたらあそこだ」

「なるほど」

 どちらもここの構造を詳しく知らない。それに不安が募る。階段の踊り場へと目を向けると、地下一階と地上一階の間であることが解った。翔がいたのは地下二階部分に当たるわけだ。まだ地上ではない。

「この階に、他の奴らはいるんだろうか」

「多分。俺が適当に廊下を走っていて、声を掛けてきたのはお前だけだ。それに、あとは人の気配もなかったからな」

「そうか」

 佳広もここにいると確信したようだ。

 しかし、どう進むか。左右を確認しても解らない。どちらも薄暗い廊下が続いているだけだ。と、ここでまた選択画面が現れる。

「急に本格的な脱出ゲームになってきたな」

 慧のテンションは上がった。それと同時に、緊張もしている。

 これだけリアルなゲームだ。結末がどうなるのか、この先どう展開するのか、楽しみであると同時に不安で仕方がない。こんな感覚、最近ではなかなか得られなかったものだ。

 完全にハマっていた。相川への駄目出しなんて、どうでもよくなっている。

「多分これ、ゲームオーバーがないよな。そこは本当に他のシミュレーションゲームと同じなんだ」

 そして、このゲームの特徴も掴み始めていた。

 これ、ルートがいくつも設定されていて、どんな選択にも対応しているのだ。そうなると、バッドエンドであろうと、リセットとなる最後まで続けることが出来る。恋愛ゲームじゃないから、途中のミスは関係ないことになるだろう。

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