第13話 味方発見!?

 よたよたと進む翔は、じれったくなるほど遅い。これでは、復活した丹波たちが追い付いてくるのは時間の問題だろう。

 そう思っていると、けたたましい警報音が鳴り響いた。

「ちっ」

 首に付けられた機械が点滅を繰り返している。これが警報器を作動させたのだと解った。一定距離、あの部屋から離れると感知するようになっているらしい。

 なるほど、動きではなかったのか。

「こうなったら」

 一方、翔の動きは大胆だった。追手が来ると解った途端、歩幅を制限する足枷を、今曲がった角にぶち当てた。

「ええっ」

 意外と、翔の行動力に慧は驚く。

 線の細いイケメンで、しかも天才が、そういう方法を取るんだと驚いた。何度かぶつけていると、がちんという音がして、足枷の中心にあった鎖が割れる。足枷自体はまだ足首に付いているが、歩くのには問題がなくなった。

「こっちから音がしたぞ」

「絶対に逃がすな」

 追手の声がした。

 さすが軍が管理する機関と思われる場所。追手の数も桁違いに多そうだ。かつかつという軍靴が立てる足音が、大きな音となって廊下に響き渡っている。

 その不気味さに、慧も追い掛けられている気分になりドキドキしてしまう。

「くそっ」

 翔の顔は焦りで真っ青だ。捕まれば自分がどうなるか。よく理解している。だから必死で廊下を駆け始めた。

「おおい。こっちだ」

 そんな慌ただしく走る翔に、のんびりした声が掛かる。

 一体誰だ。

 すると、選択画面に切り替わった。

「確認するかしないか、か」

 たしかに、確認すると時間が取られる。しかし、相手は明らかに知り合いだ。味方だったら心強い。今、翔は絶体絶命の状態だ。

 こうなったら、溺れる者は藁をも掴む。味方に縋れ、だ。

「確認する、だな」

 慧は確認するを選択した。すると翔が急いでそちらに向かう。

「翔。俺だ。ここだ」

「その声、坂井か」

「そうだ」

 よかったと安心する坂井は、鉄格子の付いた窓から満面の笑みを浮かべていた。年齢は翔より年上か。丸眼鏡が特徴的な男だった。坂井は下の名前を佳広よしひろといい、助手であることが下に注釈として現れた。

 こいつだけ解説している時間がないってことらしい。いきなり雑な部分が出てきてびっくりしたが、ゲームの進行を妨げないこの方法はいいと思う。

「よかった。お前がいれば安心だ」

 翔は駆け寄ると、ドアをがちゃがちゃと引っ張る。が、鍵が掛かっていて開かない。

「くそっ」

「た、体当たりでもするしかないか」

 佳広も、呼んだはいいが、その後の手を考えていなかったと慌てた。

「そうだな。俺が身体をぶつけると同時に、思い切り引っ張ってくれ」

「解った」

 しかし、翔は冷静にそれに対応する。こういう時、選択画面が出ないのはどうなのだろう。まあ、ここでどんな選択肢を用意するんだって話か。

 仕方ない。ここはただ応援するしかないな。

「がんばれよ」

 慧は本日のカップ麺を引き寄せながら、その成り行きを見守ることにした。

 どっちにしろ、ここで佳広を助けられないと翔は拙い。時間もないことから、捕まって終わりだ。

「せいのっ」

「よっ」

 がんがんと、トライすること数度。ドア自体は普通の作りだったらしく、蝶番が緩んだ。そしてガコンッという音とともに外れる。

「よし」

「さすが、翔」

 慧は思わず称賛の声を上げていた。いつしか彼と友達気分だ。

 が、画面の中と交流できるわけではないので、喜ぶ二人を見るだけだ。そうなると、途端に冷静になる。

 まったく、この恐ろしいまでのリアリティめ、とカップ麺に湯を注ぎながら溜め息を吐くだけだ。ただパソコンに流れる画面を見ているだけだというのに、臨場感が半端ない。

「他に捕まっている奴は」

「白川さんと、あとは有田だ。お前の友人の」

「ああ。宇大たかひろか」

「そう。彼も捕まっている」

 二人は廊下を走りながら、そんな会話をしていた。

 つまり、彼女の湖夏だけでなく、翔の研究を手伝っていた人たちも捕まっているということだ。

「くそっ。総ては熊野のせいだ」

「あいつか」

 佳広は苦々しげに顔を歪める。司門のことはよく知っているらしい。たしかにあの性格、何度も嫌がらせをしてきそうな感じだ。ひょっとしたら過去に何かあったのかもしれない。

「熊野は本気だ。俺の考えた、太陽光を完全に利用するあの理論。あれを現実のものにしようとしている」

「冗談だろ。あれは、空想の産物に近いものだぜ。どうやって実現させるっていうんだよ?」

「理論を打ち立てた俺だって、そう思っている。まあ、昔から地球外生命体を探している連中は、本気で出来ると考えていた代物だ。俺もそれを参照し、太陽系でも可能なのかと考えてしまった。やれないはずはないと、考える奴が出てきても不思議ではないが」

 一体何の話なのやら。

 プレイヤーである慧は完全に置いて行かれている。

 会話から解るのは、SFっぽいことだろうということだけだ。とはいえ、情報は少ないながらも推測することは出来る。

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