第8話 壮大なストーリー
「にしても、その辺の設定が自分で考えなきゃならないってのが面倒だよな」
ゲームをやり込んでいる慧にはすぐに推理できるが、一般向けにするならば、ちゃんとその説明をすべきだろう。どこかでナレーションを入れるとか。
と、頑張って粗探しをする。しかし、今までの退屈なワンパターンのゲームとは異なるのは確かだ。
常陸が出て行き、また静かな空間に戻ってしまう。先ほどまで会話していたせいか、余計にしんと静まり返ったような気がしてしまう。
「はあ」
翔は、すでに疲労を感じているらしい。その大きな溜め息から、ここに拘束されて長いのだと解るほどだ。
そのリアリティに、また慧は飲まれそうになる。
「あぶねえ。こいつに肩入れしそうになるな。今日はこの辺で止めるか」
そう思ったが、どうやってセーブするのかが解らなかった。適当にキーを押すが、反応してくれない。
「ったく、こんなもん、一日でクリアできるわけないだろ。大体、どういう場所なのかも解らないのに」
そんなぼやきをしながら、セーブボタンを探していると、画面が切り替わった。そして、翔と同じような部屋であるものの、別の人物が映し出される。
「おっ。これが仲間か」
慧は止めようと思っていたことを忘れ、画面を食い入るように見てしまった。
というのも、ベッドに腰掛けて本を読む人物は、可愛い女子だった。長い髪をツインテールにしていて、目がくりっとしている。背は低そうだ。
ひょっとしてこの子、翔の彼女か。
すぐに気づいたものの、翔を見ているよりかはいい。
「翔はどこにいるのかしら。それを掴むのが第一よね」
溜め息とともに吐き出された言葉に、やっぱりかと慧は僅かにがっかりする。
ゲームに出てくる女の子に入れ込んでどうするという話だが、現実世界の女子たちが、悠月や彩乃を代表として最強系なんだから、仕方がないとも思う。
「別々の部屋ってだけでなく、階も違うってことか。ということは、この二人を出会わせることで、ゲームが進むわけだな」
なぜか、ゲームの説明もないというのに、どうやるべきかが解ってしまう。妙にしっくりくるゲームに、相川の怖さを感じないでもない。
「こっちは、あまり拘束されていないな」
女の子の姿を観察していると、こちらの拘束は甘いことが解った。手錠はされていないし、足枷もない。妙な首輪はあるようだが、それだけだ。動きは監視されているようだが、制限はされていない。
「となると、こっちが迎えに行くのがいいんじゃないか。この子の能力は解らないけど」
そんなことを考えていると、コンコンとノックする音がした。そして先ほどの、あの常陸が入って来る。
「お食事よ。
「常陸さん」
おっ、こちらは仲がいいのか。
にこやかに会話が始まった。湖夏はすぐに机に移動し、常陸が持って来た食事を受け取って笑顔を見せる。
「もう、この時間以外に楽しみがないんだもん。嫌になっちゃうわ」
「それ、彼氏に言ってくれるかしら。あちらは頑として首を縦に振ろうとしないのよ」
「ううん、それは無理」
にこやかなのか、そうでないのか。
何だか背筋にぞぞっとした感覚が走る会話が展開された。
危ない危ない。
女子ってこういうところあるよな。
「じゃあ、暇な時間はまだまだ続くわね。まったく、どうして解らないのかしら。これは偉大な実験になるはずよ」
「まさか。破滅への実験でしょ」
まだまだ続く、怖い会話。
にしても、ここの奴らは何を企んでいるのやら。反対派の意見を聞く限り、かなりヤバいことを企んでいるらしい。
まあ、民間人をこうやって堂々と、しかも厳重に拘束している時点で、ヤバさは十分に伝わってくるのだが。
「破滅とは酷いわ。太陽光の最大限の利用。これは人類の夢よ」
「そこだけ聴くとね。でも、あんたらの企んでいることは、そんなレベルの話ではないわ」
飯を食いながら、超真面目な話がスタートしていた。しかし、これは重要な情報だ。
なるほど、太陽光ねえ。この時代にはもう、化石燃料は枯渇しているのだろうか。そこで別の、自然エネルギーに頼らなければならないとか。
「どうして。地球を救うことになるのよ。このままでは、住めない星になってしまう。けれども、人類は未だに火星に行くにも四苦八苦。どうするのかしら」
オホホと高らかに笑う常陸に、湖夏は睨み付ける顔をする。
どうやらその点に関して、反論は難しいらしい。ということは、人類滅亡の危機ってことか。
えらく壮大なストーリーだな。変人相川に似合わず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます