第65話 決勝戦・12

 ついに闇竜ダークドラゴンはステラの元まで辿り着いた。

 

「ぽろたん、あとは任せて!」


 フランは闇竜ダークドラゴンから手を離し、闇竜ダークドラゴンの背から空中へ飛び出した。

 そして加速装置ブーストを起動させる。


 フランは一気に加速して、一瞬でステラの元まで飛んで来た。

 ヴァイスブレードを抜き、ステラに向かって斬り下ろす。

 

 切れた……ハズだった。

 ステラの姿は一瞬にして、十メートル後方に飛び退いていた。

 

「まさか加速装置ブースト……ステラも使えるの?」

 フランは驚愕した。

 

 そう、ステラは全てのスキルが使えるのだ。

 

「まさか、ここまで辿り着けるとはね……私に追いつけるかしら?」

 ステラは加速装置ブーストを起動し、一気に逃げようとする。

 

「そうはさせない!加速装置ブースト!」

 フランも負けじと加速装置ブーストで加速し、追いつこうとする。

 

 ここまで来たら意地だった。

 

 光速で逃げるステラと光速で追うフラン。

 戦いは加速対決となった。

 

「すごい……どこなの?二人の姿が見えないよ……」

 ぽろたんは、闇竜ダークドラゴンの背中でぐったりしながら呟いた。

 

「追いついてごらんなさい!加速装置ブースト第二段階!」

 ステラは加速の速度を上げる。

 

「なんの!加速装置ブースト第二段階!」

 フランも負けじと更に加速する。

 

「だったらこれはどう?加速装置ブースト第三段階!」

 ステラが更に加速し、フランとの距離を離す。

 

「そんな事ができるなんて……私だって!加速装置ブースト第三段階!」

 フランも再度加速のギアを上げる。

 できるかどうか分からないがやってみたらできたのだった。


 流石のステラもこの段階の加速をしながら特級魔法を放つ事はできないらしい。

 ステラは逃げる一方になっている。

 とはいえ、一度逃して仕舞えばフランとぽろたんにはもう防御できる術はない。

 離れた位置から放たれる特級魔法の一撃であっさりとやられてしまうのだ。

 ここは是が非でもステラを逃すわけにはいかなかった。

 

「やるわね人間……こうなったら一気に最大加速まで行ってあげる。加速装置ブースト第十段階!」

 ステラの加速が一気に増した。

 

「まずい!私にできるかな……いや、やらなきゃ……c」


 フランの加速も再び一気に速度を増した。

 

 もはやフランに周りの景色は見えていなかった。

 ただ、ステラの姿だけを必死に追っているので、自分が今どこにいるのかさえよくわかっていない。

 

 これにはステラも驚いていた。

「まさか、私以外に第十段階まで加速できる人間がいるなんて……ね」


 そもそも、バトルロイヤルの決勝戦の対戦エリアは広いと言っても限界がある。

 本来なら、加速第二弾の時点であっという間に境界の壁にぶつかるはずなのだが、ステラはリアルタイムでシステムにアクセスし、対戦エリアのフィールドを勝手に拡張していたのだ。


 加速第三段階では、拡張したフィールドでもすぐに端まで移動してしまうため、加速して移動しながら次々にフィールドを形成して行った。

 

 しかし、ここにステラの誤算があった。

 フィールドの拡張はステラが勝手にやっているので、好きなように作っていたのだが、フィールドを管理するサーバーシステムのメモリには限界がある。

 作成できるフィールドは、65535枚が限界だったのだ。

 

 加速装置ブースト第十段階で移動しながらフィールドを拡張して行った結果、メモリの限界点である65535枚に到達してしまった。

 

「あ、やば……」

 ステラはこれ以上フィールドを形成できない事に気づいた。

 

 このまま移動し続けていたら、フィールド端の壁に激突してしまう。

 一旦向きを変えて、私のコンピュータの方にフィールドデータを移行させて再度形成すれば……

 そう考え、ステラは加速速度を落とした。

 

 しかし、フランは速度を落とさずにそのまま突っ走ってきた。

 

「ひかりになれえええええ!」

 フランはそう叫んで、ステラに向かって加速を続ける。


 フランの構えたヴァイスブレードが、速度を落としたステラについに触れた。

 

 ザンッ!

 

 そのまま、ステラの体を切り裂いた。

 

「うわあ!壁壁壁っ!」


 ようやくフィールド境界に気がついたフランは慌てて急ブレーキをかけて、速度を落とした。

 

 ズドオオオオオォオォン!

 

 物凄い轟音と膨大な土煙を撒き散らし、派手にブレーキをかけてフランはなんとか壁の手前ギリギリで止まる事ができたのだった。

 

「よくやったわ……人間。私の負けよ」


 フランがハッと振り向くと、光の粒子となって消え行くステラの姿があった。

 

「ステラ……私……」


 フランはステラを見つめる。


 ステラは何も言わず、親指を立てた姿のまま光の粒子になって消えた。

 

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