第59話 決勝戦・6

加速装置ブースト!」

 フランは加速装置ブースト!を起動させ、ミオのいるはずの位置まで一気に移動、そしてヴァイスブレードを抜き、切り付けた。

 

 しかし、ヴァイスブレードは虚しく空を切る。

 

「そこまでよ!」


 フランが振り向くと、ミオはナイフをぽろたんの首元に当てていた。

 

「ご、ごめん……フラン……」


 ぽろたんの表情は、今にも泣き出しそうになっている。

 後ろからポロたんの腕を抑え、首にナイフを当てたまま動かないミオ。

 

「ま、負けたわ……ミオさん、あなたの勝ちです」

 フランはヴァイスブレードを仕舞い、両手を上げる。


 この戦いのルールでは、PTパーティを組んでいる者は、一組が一人と同じとみなされる。

 PTパーティメンバーの誰かが倒されれば、その瞬間、PTパーティメンバーの全員が失格となる。


「さすがレン先輩の弟子たちね。まさか地面の下からやってくるとは思わなかった」

 ミオは、ぽろたんにナイフを当てた姿勢のまま話し始めた。


「ミオさん?」


「そしてすぐに水飛沫で目眩しとは考えたわね。フランの加速装置ブーストありきの作戦だけど、即席にしてはよくできていたわ……」


「でも……結局勝てませんでした」

 フランは悔しそうに言った。

 

 「それは、私があなた達と大会前に何度も練習したからよ。目眩しの次にすぐあなたの加速装置ブーストが来る事は、よく知っていたからこそ逃げられた……他のプレイヤーだったら今ので十分やられてたわ」

 

 事実、フランはカティをも倒している。

 相手がミオでなければ十分勝てたのは確かだろう。


「実はね……私は〝サバゲのアン〟との戦いで足を負傷しているの。もう十分に歩けないのよ」


 ミオはそう言って、ぽろたんの首からナイフを離した。

 ぽろたんは慌ててフランの元へと駆け寄った。

 ぽろたんを抱きしめるフラン。

 

「ミオさん……」


「今の瞬間は最後の力を振り絞って、何とか動けたのだけどね……このままあなた達を倒したとしても、もう優勝は無理だったの……」


「ミオさん……じゃあ最初から私たちには……」


「そうね、足を負傷する前だったなら、そのままあなた達を倒していたでしょうね……でも、今回は譲るわ。私の代わりに優勝を取ってきてね」


 ミオはそう言って微笑んだ。

 

「ミオさん……私……」

 ぽろたんはまた泣きそうな顔になっている。

 

「さあ、ヴァイスブレードを抜いて、その剣で私を……」


 そこまで言ってから、ミオの顔が急に曇る。

 

「ミオさん?」


「伏せて!早く!」


 叫ぶミオ。

 何が何だかわからないまま、とりあえずフランとぽろたんは伏せた。

 

 ミオは突然走り出し、懐からサブウエポンを取り出した。

 

「シールド展開!」


 手のひらサイズのボールのような物をいくつか取り出し、それを無造作に投げる。

 ボールは地面に落ちると、地面から空中に向かって伸びる半透明の壁を作り出す。

 

 シールドと呼ばれる、主に敵の遠隔攻撃を防ぐことができるサブウエポンだ。

 それを何個も展開し、ミオの前にはいくつもの半透明な壁が出来上がった。

 

 その直後……

 

 ドオォオオォォォオオォンッ……

 

 鼓膜が破れるかのような大きな衝撃音と、激しい衝撃が辺り一帯を襲った。

 

 衝撃波は何度も繰り返しやってきて、その度に地面が揺れる。

 衝撃波を喰らう度にミオのシールドが一つ、また一つと壊れていく。

 

 そして、全てのシールドが破壊された。


「もう一撃……来る!」


 ミオは慌ててフランとぽろたんの元に駆け寄り、衝撃波を体で受け止めた。

 ミオの体が壁となって、衝撃波が拡散し、フラン達は無事だった。


 ……そこでようやく衝撃波が止んだ。


 ミオはその場にどさっと倒れ落ちた。

 

「ミオさんっ!」


 フランとぽろたんはミオの手を握る。

 ミオの姿は、衝撃波をまともに食らってぼろぼろだった。


「ミオさん……私たちを……かばって……」

 フランは涙声だった。


「そんな……いやだよ……」

 ぽろたんの目からは大粒のなみだが溢れる。


「フラン、ぽろたん……あとは……任せたわ……」

 ミオはそう言うと、光の粒子となって消えた。

 

 少しの間、ぼーっとしていたフランだったが、慌ててハッと我に帰った。


「ぽろたん、残りのプレイヤー数は?」


 ぽろたんは慌てて涙を拭き、デバイスを取り出して操作する。

 

「えっと……残りプレイヤーは……二組……」


「私たちと、あと一組って事……」


「そう……だね」


 フランとぽろたんは互いに顔を見合わせていた。

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