第57話 決勝戦・4

 フランとぽろたんの二人は、カティを倒した。

 

 ぽろたんは地面にへたり込んで、フランは立ったままお互い顔を見合わせて、笑っていた。

 

 二人のいる辺りは、戦闘により荒地となっていた。


 その様子を遥か上空から見つめていたプレイヤーがいた。

 宇宙戦艦ウロボロスは、二人がカティを倒した事を知り、生き残った二人を倒そうと、主砲の向きを二人に向けた。

 

 ひとたびレーザーカノンが放たれれば、その攻撃範囲は半径五十メートル四方に及ぶ。

 いくらフランの加速装置ブーストを使用しても、逃げ切れはしないだろう。


 しかも、二人はまだ宇宙戦艦ウロボロスの存在に気がついていない。

 

 

「悪いな、二人とも……」

 ウロボロスに登場していたプレイヤーは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 そして、レーザーカノンの発射スイッチに手が伸びた。

 

 その時だった。

 

 

 ズウウウゥゥゥン……

 

 宇宙戦艦ウロボロスの船体に、大きな揺れが起きた。

 

「な、何っ!」


 ウロボロスのプレイヤーは慌ててスキル〝鷹の目〟を使い、周囲を索敵した。

 

 フランとぽろたんの二人は、完全に気がついていなかった。

 むしろ、今の衝撃音を聞いて初めてウロボロスの存在に気がついていた。

 

 誰だ……他にいるのか?

 俺の鷹の目でも発見できないスキルを持った奴が近くにいたのか?

 

 その時、再び船体に衝撃が走った。

 

 ドオオオォォォォン……

 

 第二撃により、船体のダメージはもはや致命傷となっていた。


「くそっ……ここまでか……」


 その時ふと、鷹の目が高台の上にいたスナイパーの姿を捉えた。

 ミオである。


 

 ミオは長身の狙撃銃シュトロイゼルでウロボロスを狙い撃っていたのだ。


隠匿ステルスのスキルか……道理で鷹の目でも気がつかないわけだ……あいつが俺を……負けたぜ……」

 

 ウロボロスのプレイヤーは、沈み行くウロボロスのデッキで敬礼の姿勢を取る。

 ウロボロスのデッキは火に包まれ、大きく傾いた。

 

 

 ウロボロスは火を吹きながら墜落して行き、地面に激突すると激しく爆発した後、光となって消えた。

 

 

 その様子をフランとぽろたんの二人は、驚愕の面持ちで見つめていた。


「あれは……あれもプレイヤーだったの?」

 

「でも、倒されたみたいね……」


「私たち、危なかった……あの敵を撃ち落としたのは?」


 フランは慌てて周囲を見回した。

 遠くに小高い山が見える。

 おそらく、あそこから撃ったのだろう。

 山からは、こちらの様子が見えるはずだ。

 

「ぽろたん、急いで逃げるよ!」

「え?どうしたの?」


 フランは急いで加速装置ブースターを起動し、ぽろたんの手を繋いで移動した。


 ……ぱしゅっ

 直後、さっきフランのいた位置から、乾いた音が聞こえる。

 狙撃銃の弾が掠めていたのだ。

 

 フランは小高い山からは死角になる位置まで加速装置ブースターで移動して、一息吐いた。

 

「あ、危なかった……」


「え、狙われてたの?私たち……」


 何が起こったのか分からないぽろたん。

 

「多分、ミオさんだよ」


「え、ミオさん……」


「うん。恐らく私たち、カティを倒した後、あの宇宙戦艦に狙われていたんだ。宇宙戦艦が私たちに気を取られている隙に、あそこの丘の上からミオさんがシュトロイゼルのビームを射撃して撃ち落としたんだと思う。 ……そして」


「そして、次はミオさんに私たちが狙われたのね……」


「そういう事」


 ぽろたんは、ようやく状況が理解できた。

 あわててフランが回避行動をとってくれなければ、ミオの狙撃でやられていたところだった。

 

「ありがと……フラン」


「良いって、それよりプレイヤーはあと何人?」


「待って、今確認する」


 ぽろたんはデバイスを取り出して操作し、情報画面を見る。

 

「四組が戦闘不能リアイアになって……残っているのは、あと六組だよ……」


「あと六組か。私とぽろたんの二人で一組、ミオさん、そしてその他の四組って所ね」


「うん」


「次の相手はミオさんか……勝てるかな……」


「わからない……やってみるしかないよ」


「そうだね」



 その様子をスクリーンの向こうで見つめる人物がいた。

 

 レンだ。

 

 レンは今回、大会には参加していない為、ドームスタジアムに設営されたライブビューイングの会場でその様子を見学していた。

 大会は大盛り上がりで、観客たちはそれぞれ推しのプレイヤーに声援を送っている。

 

「盛り上がってるなー。はあ、なんか、僕も参加しとけばよかったかなって気になってくるよ……あ、すいませんコーラください!」


 レンは売り子からコーラを買い、ストローで飲みながら大会の様子を楽しんでいる。


「次はミオとフラン・ぽろたん達がバトルになりそうだな……みんながんばれー」


 気楽な様子でスクリーンを見ていたレンだったが、突然おかしな事に気がついた。

 

 スクリーンには、現場のバトルの様子を映し出している画面の横にプレイヤー情報も映し出されている。

 

 現在、十組のプレイヤーの四組にバツ印が付けられて、残り六組となっている。

 その中の名前に、ミオとフラン、ぽろたんもある。

 他のプレイヤーの名前には、レンは見覚えがなかった。

 

 しかし、一人のプレイヤーの名前には妙に見覚えがあったのだ。

 エントリーNo.9、マレンヌ

 

 マレンヌ……どこかで見た気がするんだけど……誰だっけ……

 レンは思い出そうとしてみたが、どうしても思い出せない。


 すると突然、ドームスタジアムの中に場内アナウンスが流れた。


「運営よりお知らせです。参加プレーヤーの方のお名前に記入ミスがありました。大変申し訳ありませんでした。ただいま、正しい名前に直しましたのでご了承ください」


 そして、スクリーンに映し出されたプレイヤー名から、マレンヌの文字が消え、別の名前に変わった。

 

 「え……なんだって……」


 プレイヤーNo.9 マレンヌの名前があった場所には、別の名前が記載されたのだった。

 

「ス……ステラさん……なぜここに……」

 

 

 ……新たに書き込まれたその名は、ステラ。


 ステラとは、第三地球サードアースの防衛からインフラまで全てを担うスーパーコンピュータ、エピス絶対防衛システムのメインAIの名前である。


 会場にステラの名が掲載されても、誰一人、その名前に興味を持つ物はいなかった。

 だが、レンはその名に心当たりがある。

 レンは何の因果か、気まぐれでふらっとザラートワールドに現れたステラに運悪く連れられて、一緒にダンジョン攻略に行った事がある。


 その時、間近で見る事になったステラの圧倒的チートスキルを思い出して、レンは身震いした。


「フラン、ぽろたん、ミオ……可哀想だけど今回は勝ち目がないよ……」

 レンは盛り上がる会場内で一人陰鬱に呟いた。

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