バトルロイヤル決勝篇

第54話 決勝戦・1

「我……敵生体二体を目視にて確認……排除フェーズに移行する」


 ヴォン……


 全身が雪の様に真っ白な肌の上に、同じく真っ白な胸当て、そしてドレスと言う姿の女性は、フランとぽろたんを見つめている。


 女性の名はカティ・サイエン。

 決勝に残った十組の一人だ。


 カティは電光剣ライトソードを抜きフランに切りかかった。



——決勝戦が始まった。


 決勝は予選を勝ち抜いた十組で戦い、最後に残った一組のPTパーティ、もしくは個人が優勝となる。


 フランとぽろたんの二人は、決勝が始まると、敵に見つからない位置取りを取る為に林の中に隠れる事にした。


 しかし、運の悪い事に林の中に入った途端に、カティと出くわしてしまったのである。


「ねえ、ぽろたん。あの女の人、真っ白で何か怖いんだけど……本当に人間?」


「知らないけど……ああいうアバターなんじゃ無い?」


「でも話し方も何か怖いよ……ロボットみたいで」

「知らないって……そう言うプレイスタイルなんでしょ」


 ぽろたんとフランはカティから逃げる様に走っていた。

 予選と違って、決勝で優勝する為には逃げるだけでは勝つ事は出来ない。

 どこかで反撃に転じる必要があるのだが、今は一旦逃げて体勢を立て直したい……フランはそう考えていた。


「我……敵生体を喪失……」


 カティが立ち止まり、周囲を見回す。


 フランとぽろたんの二人は、ちょうど良い場所にあった岩の影に隠れて様子を伺っていた。


 決勝では、予選で使われたエリアを幾つか繋げた大きな一つのパブリックフィールドで戦いが行われる。

 レーダーは完全に使えず、目視か己のスキルのみで敵を探して戦う必要がある。


「とりあえず撒いたね」


「うん、あの人強そうだから、このまま逃げて一旦他の人と戦ってこようか」


「そうだね……」


 その時だった。


「滅——」


 ズゥゥゥン……


 大きな低い音が鳴り、そのすぐ後、フランとぽろたんの元に衝撃波が襲って来た。


「なになにっ!」


「何が起きたの?」


 慌てるフランとぽろたん。


「我、敵生体を発見出来ず……無差別破壊フェーズに移行する……」


 カティの声が聞こえた後、ヴヴヴヴ……と低く呻く様な音が聞こえる。


「わ、これ何かヤバいの来そうだよ」


「うん、とりあえず逃げようか……」


 フランは加速装置ブーストを発動させ、いつでも使用できるように待機状態にしておいた。

そしてぽろたんの手を握る。



「滅——」


 再びカティの声が聞こえて来た。

 フランは慌てて加速装置ブーストを起動させ、ぽろたんを連れてその場を離れた。



ズゥゥゥン……


 先程まで二人がいた場所が、隠れていた岩ごと消滅していた。


 地面にはクレーター状の穴が空いて、蒸気が噴き出している。



「なっ……」


「え……」


 フランとぽろたんの二人は絶句している。


 あのまま岩の影に隠れていたら、今の攻撃で二人とも戦闘不能リタイアになっていただろう。


「ど、どうする?フラン」


 ぽろたんは、フランの影に隠れている。


「逃げるのは難しそうだよ……ぽろたん、ここは覚悟を決めて、戦うしかない」


 フランは奥歯を噛み締めながら言った。


「うん、そうだね……」



 ——そんなフランとぽろたんの様子を、モニター越しに見つめる者がいた。


 鈴音だった。


 鈴音は自宅いて、自室のパソコンモニターに映しだされたらバトルロイヤルの様子を、心配そうに見守っている。


 バトルロイヤルの様子はインターネットで中継されて映像が配信され、フルダイブMMOの外からでも視聴できるようになっていた。

 人気ゲームの第一回大会という事もあり、視聴者数は運営の予想を遥かに上回る数字を叩き出している。


 しかし、鈴音はそんな事は気にもせず、ただフランとぽろたんの二人の様子だけを心配し、予選からずっとモニター前で祈っていた。


「二人とも、頑張って……優勝できなくても良いから、怪我だけはしないで……」


 バトルロイヤルと言ってもヴァーチャル世界の中での戦いなので、ダメージを負ったり戦闘不能リタイアになっても外傷を負う心配は無い。

 殴られても切られても、当たった部分に軽い振動の様なフィードバックを脳波に感じるようにプログラムされてはいるものの、その感覚はせいぜい人混みの中で歩いて来た人がぶつかった程度でしかない。

 多少のストレスは感じるものの、最大のダメージを負っても実際に感じるのはせいぜいそれくらいだった。


 鈴音もスズとしてゲームをプレイしているので、そんな事は百も承知しているのだが、とは言え心配してしまうのだった。



「今日は勝っても負けてもご馳走様用意して待ってるから、二人とも、無事に帰って来てね……」


 画面の中の戦いが激しさを増す中、ただ祈るしか出来ない事に無力感を覚える鈴音だった。

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