第53話 森林の攻防・下

 フランは、ル・レクチェから距離を取った。

 ル・レクチェは辺りを見回している。


「フラン……」

 小さな声が聞こえて、フランは驚いた。


「フラン、私よ……」


 姿は見えなかった。

 しかし、フランは声で誰かはわかった。


「ミオさん、いるんですか?」


 フランも小さな声で返す。


「うん、近くにいるわ。今は私のスキル隠匿ステルスで姿を見えなくしているの」


「それで分からないんですね。ミオさん、さっきは助けてくれてありがとうございます」


「そうなの。ねえ、とりあえずここは共闘しない?」


 ミオはまだ姿を隠したままだ。


「悪い冗談です。私が断ったら、今度は姿が見えないミオさんに狙われるんですね」


「そうとも言えないの。あのル・レクチェのスキル黒触手ナノフィーラーは、半径十メートル以内に近づいた物は無条件で攻撃し、更に自動で防御もするの。更に半径二十メートルの距離にある対象には、あのサークレットで念じるだけで攻撃できるみたいよ」


「どう言う事ですか?」


「つまり、私のスキルで姿を隠していても、自動で防御されちゃうからル・レクチェに私の攻撃は当たらないって事、そして一度防御されて私の場所を特定されたら、あの触手に刺されてやられるわ……私一人では倒せないのよ」


「なるほど……そうですね。私も一人では勝てそうにありません。おまけに、ぽろたんも見つかったらやられちゃいます」


「でしょ、だったら取る手は……共闘するしか」


「分かりました。共闘しますね……でも、何か策はあるんですか?」


「あるわ……いい?……」


 フランは、耳元にミオの存在を感じた。

 ミオが作戦を耳打ちしてきた。


「……なるほど。それで行きましょう!」



「くすくす、隠れたってムダですわ……私の黒触手ナノフィーラーで、隠れ場所を全部切り刻んであげますの……」


 ル・レクチェは両手を翳し、手当たり次第に触手を出してあちこちを切り刻んで行った。


 木が次々に倒れて行く。


「レクチェ、こっちよ!」


 フランがル・レクチェの目の前に姿を現した。


「やっと、観念する気になりましたのね……黒触手ナノフィーラー、やっておしまいなさい!」

 ル・レクチェの手から伸びる触手が一気に伸びて、フランに突き刺さる。


 ……その直前、ギリギリまで待ってフランは身を躱して触手を避けた。


「今よ!ぽろたん!」

 フランは叫んだ。


火竜サラマンダー!」


 ル・レクチェの後方から声が聞こえた。


「後ろ?」

 ル・レクチェの後方から竜の火炎が襲い掛かる。

 しかし、素早く戻って触手から盾状に形を変えた黒触手ナノフィーラーによって、火竜サラマンダーの火炎は防がれた。


「ムダですわ!私の黒触手ナノフィーラーの前にはどんな攻撃も効きませんわ」


 火炎によって黒触手ナノフィーラーが溶けて地面に落ちる。

しかし、直ぐに再生して、元の触手の姿に戻る事ができる……


 しかし、その触手が溶けて再生するまでの、ほんの一瞬の隙を狙って、待っていた者がいた。


 「この時を待っていたわ!」


 バシュッ!


 見えない位置から放たれたレーザーが、ル・レクチェの身体を貫いた。


「……っ!……なっ!」


 ル・レクチェは声にならない悲鳴を上げる。


 直後、隠匿ステルスで姿を隠していたミオの姿が現れた。

 ミオはレーザーライフル『シュトロイゼル』を構えていた。


「さよなら」


 そして、再びシュトロイゼルのトリガーを引く。

 レーザーがル・レクチェの身体を貫通し、ル・レクチェは地面に倒れて消滅した。


 ル・レクチェが消えると、触手もまた同じ様に消えたのだった。


「やった……やりました!」

 ぽろたんはガッツポーズする。


「何とか……勝てたわね」

 額の汗を拭くミオ。


「あ、プレイヤーはあと何人?」

 フランはスマホを取り出し、覗いた。


「どう?」

 心配そうにミオが聞く。


「私たち、予選……通過しました……」


 スマホを見据えたまま、震える声で、フランは言う。


「やったね!」

 ミオは思わず叫んだ。


「え、ほんと?……よかったぁー」

 ぽろたんはその場にヘナヘナと座り込んだ。


「予選……終わったんだ……」


 フランはぽろたんの方に駆け寄る。

 隣に腰掛けて、ぽろたんに抱きついた。


「きゃー、予選通過なんて、夢みたい!」


 フランはぽろたんを抱きしめながら言う。


「そうだね。鈴姉さん、私たち、やったよ……」


 ぽろたんは、空を見上げていた。

 目の端に涙が溜まっていた。


「ふふっ、仲良いね」


 ミオは、そんな二人を温かい目で見守っていた。


——そして、予選は終了した。

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