第52話 森林の攻防・上

 ぽろたんを背負ってゲートを越えたフランは、雑木林の中に出た。


 フランはぽろたんを下ろして、スマホから現在地を確認した。


——エリア05 森林——


 スマホには、そう表示されている。

 そして残りプレイヤー数は35/100となっていた。


「35人か……」


「もう残り35人なの?」


「うん。一気に減ったね。残り10人になったら予選は終了だから実質あと25人、私達を除けば23人だよ」


「何とかバトルを避けて生き残りたいよね……」


「……そうとも言ってられないかも」


 フランは、人の気配を感じて木の影に身を隠した。


「えっ……」


 慌ててぽろたんも隠れられそうな場所を探す。


「いた……あっちの方に人がいるわ」


 フランは木々が生い茂る先を指差す。


 ぽろたんは、フランの指し示した方に視線を向ける。

 ちょっとした広場の様な空き地が見え、そこに四、五人の人が群がっていた。


 「ちょっと見てくるね。ぽろたんはそこの石の影に隠れてて」


「うん、気をつけてね」


 ぽろたんは近くにある大きな石の影にしゃがみ込んで身を隠す。


 フランは加速装置ブースターで素早く人がいる方に近づいた。

 再び木の影に身を隠して、様子を伺う。


 空き地には、五人の男のプレイヤーがいた。


 五人のプレイヤーは、それぞれ距離を取りながら、円を作るように立っている。


 その円の中央には一人の女の子が下を向いて立っている。


(何あれ……一人のプレイヤーの女の子を五人の男が取り囲んでるの……?)


 フランは、女の子を助けようか迷い、やっぱり助けようと一歩を踏み出しかけた。


 その時、女の子が顔を上げた。

 女の子は無表情だった。


「いいか!一斉にやるぞ!」

 男の一人が言った。


 女の子は表情を変えずに右手を前に出した。

 女の子の口元が、ニヤッと笑った……気がした。

 直後、女の子の前につき出した右手の平から、黒い筋のような物が生えてきた。


 その触手の様な黒い筋は、一瞬で十メートル以上の長さに伸び、五人の男達を突き刺すと、また一瞬で縮み、女の子の掌に消えた。


(何?今の……)


 フランは、そのあまりの一瞬の出来事に何が起こったのか分からない。


 男達は刺された場所を押さえながら倒れて、消滅した。


(そんな……一瞬で五人のプレイヤーを!あの子のスキルなの?)


 フランは思わず後ずさる。


 がさっ……


 フランの足が、落ち葉を踏んだ音がした。


 女の子はぴくっと眉を上げて、フランの方を見た。


「しまった……バレたわ」


 フランは思わず身の危険を感じ、加速装置ブースターを使って距離を取る。


 シュンッ……


 乾いた音がして、フランが先程いた場所を何かが掠めて行った。


 直後、フランが先ほどまで隠れていた木が真っ二つに割れて、上半分が倒れ落ちた。


「もう一人いたのね……なかなか素早い方……でも、わたくしの黒触手ナノフィーラーの前にはかないませんわ」


 女の子が喋る。


「ナノフィーラー?それがあなたのスキルなの?」

 フランは距離を取ったままで女の子に叫んだ。


「ええ、そうですわ。私のスキルはこの黒触手ナノフィーラー、そして、ウエポンは触手を自由に操る事ができる、チャクラサークレットなのですわ。このウエポンとスキルの組み合わせの前には、誰もかないませんわ」


 女の子の頭に、宝石のついたサークレットが見える。

 おそらく、あれがチャクラサークレットと呼ばれるウエポンだろう。


 ウエポンと言っても、直接攻撃する訳では無く、念力で触手を操る事で攻撃するタイプのアイテムなのだ。


 女の子は、両手を前に突き出した。

 掌から再び、黒い鞭の様な触手が伸びて、フランめがけて伸びてくる。


 慌てて加速装置ブースターで逃げるフラン。

 フランのいた場所が、触手によってズタズタに切り裂かれる。


 まるで豆腐を切るように簡単に木々を伐採していく触手。


 そして、微動だにせず、笑みを浮かべて操る女の子。


「さすがですわね。わたくしの攻撃をここまで耐え忍んだ方は、あなたが初めてですわ。名前を聞かせて頂けるかしら?」


「フ……フランだよっ」

 フランは必死で攻撃を避けながら答える。


「私の名前は、ル・レクチェ……覚えておくと良いですわ。最も、あなたとはここでお別れですけど……」


 ル・レクチェの攻撃は止まない。

 フランは加速装置ブースターを解除する事なく走り続けている。


 ぽろたんを置いて来ているので、あまり遠くに逃げるわけにもいかず、かと言って攻撃する事も出来ずに、防戦するしかない状況であった。


「ぽろたんを連れて来なくて正解だったわ。私の加速でも避けるのがギリギリ……でもいつまでもこうしてはいられないし……」


「フランさん、そろそろ終わりにして差し上げますわ」


 ル・レクチェはそう言って、右手を突き出したまま、左手を握る。

 左手から出ていた触手はバシャッと水の様に崩れて、地面に落ちた。


「な、何っ?」


 次の瞬間、フランの足元から触手が伸びて来て、フランの左足に絡みついた。


「し、しまった!」


 フランは、地面から出てきた触手によって左足の自由を奪われた。

 ル・レクチェの右手から伸びる触手がル・レクチェを中心に回転し、さながら巨大な回転ノコギリの様になりながら、徐々にフランに近づいて行く。


 フランは、身動きが取れず、触手ノコギリに刻まれるしか無い……


「ここまでか……」


 フランは目を閉じた。


 ミュオンッ……


 直後、無機質な音が聞こえた。


 バシャッ……


 直後、フランの左足に絡みついていた触手が弾け、足が自由になる。


「た、助かった!」


 急いで加速装置ブースターを使い、後方に飛び退いた。


 ル・レクチェの回転触手ノコギリは、間一髪の所で再び空を切る。


「チッ……あと少しでしたのに……誰ですの?」


 ル・レクチェは辺りを見回す。


 しかし、辺りには人は見当たらなかった。

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