第51話 ゲート前の攻防・下

——エリア03・市街地が場外になるまで、残り時間は3分を切りました。まだエリア内に残っているプレイヤーは速やかに移動して下さい——



 アナウンスは無慈悲に流れていた。

 

「ねえ、ぽろたん」

 瓦礫の影に隠れながら、フランは隣のぽろたんに聞いた。

 

「何?」


「あのゲートを越えたら、どこに行くのかな?」


「行ってみないとわからないけど……どうして?」


「もしも、だよ。ゲートの行き先がランダムだとしたら、あのロボットがゲートを越えた瞬間を狙って私たちもあのゲートをくくれば問題ないと思うんだ。でも、行き先が決まっているのだとしたら、私たちが時間ギリギリに抜けた時に、ゲートの先であのロボットが待ち構えている可能性は……」


 フランはいつになく冷静な顔で言った。


「あ……そうだね。かなり高いかも……」

 ぽろたんはその点は考えていなかった。

 

「だとしたら、どっちがより危険かな」


「あのロボットがゲートの先で待ち伏せしている中で私たちが通過するか、それともあと3分以内であのロボットを倒して通過するか……ね」


「うん……」


「どの道戦わなきゃいけないんだよね……だったら」

 ぽろたんは、何かを決意した顔で言った。

 

「今しかないでしょ!」

 フランはそう言って頷いた。

 

 そして、二人は瓦礫の影から飛び出して、広場に向かって走って行った。

 

 最初に気がついたのは、ロボットの隣で一緒に歩いていた少女の方だった。

 

「お兄ちゃん!また敵が来たよ!」

 少女は、ロボットに向かって話しかけた。

 

「何だと、まだいたのか……よし蹴散らせてやるっ」

 ロボットのスピーカーから、声が聞こえた。

 

 少女の名は、紗倉さくら千里ちさと、そしてロボットに乗り込んで操縦しているのは紗倉さくら才汰さいたである。


 紗倉さくら才汰さいたのハンドルネームはピュータ。

 そして、紗倉さくら千里ちさとのハンドルネームは、チサである。

 


 ピュータの操るロボットの名は、『フルメタル・オペレーティング・メカニカル・アーマー』略してFOMA。

 型番はP900iである。

 

 ちなみに、ロボットはメインウエポン扱いである。

 乗ることで攻撃系ステータスが大幅にアップする。ただし魔法系ステータスは0になり、使えなくなる。 

 

 チサは空間から盾を取り出して構えた。


 チサのメインウエポンは盾であった。

 その名を『イージスの盾』と言う。

 攻撃力が0になる代わりに、防御系に強いスキルを使える様になる。

 

「ねえ、作戦は?」

 ぽろたんは走りながら、フランに聞いた。

 

「ない。先手必勝!」

 同じく走りながらフランは答えた。

 

「ええっ……やばいじゃんどうみてもあのロボット強そうだよ」


「私が時間を稼ぐから、ぽろたんはあの必殺技を!」


「もう使うの?」


「今使わないで負けちゃったら一緒でしょ。だったら……」


「そうだね。うん。やってみる」


 フランは勢いよく走り込み、ヴァイスブレードを抜いてチサに切り付けた。

 

 チサは盾でその攻撃を受け止める。

 

 FOMA P900iがあわてて振り向いた。

 ロボットの背中が割れて大きな大砲をその姿を現した。

 

 大砲はグルンと横に180度回転し、ロボットの腹の前に来て止まる。

 ロボットはフランに照準を合わせ、大砲のエネルギーを溜めて行く。


「チサ!そのまま敵を引きつけていてくれ!兄ちゃんがやっつけてやる!」

 ロボットのスピーカーからピュータの言い放つ声が聞こえる。

 

「うん、兄ちゃん頼んだ!」

 チサは呪文を唱えた。

 盾が大きくなり、一瞬でチサの体と同じ位の大きさになった。

 

「ええっ」

 フランはヴァイスブレードで何度か盾を切り付ける。

 しかし、盾はびくともしなかった。

 

 そうこうする内に、ロボットの大砲にエネルギーが集まってきた。

「覚悟しろ!iビームっ」


 ロボットから、巨大なレーザービームが放たれた。

 ビームはチサとフランの二人を飲み込んだ。

 

 だが、チサはイージスの盾でビームを防いでいる。

「ふ、避ける間もなかった筈だ。終わったな」


 ピュータは、ビームが消えた後、フランがいた場所を確認した。

 しかし、そこにはフランの姿は見えなかった。

 

「なっ……ど、どこに行った?」


「ここだよっ」

 フランはいつの間にか、ピュータの後ろに瞬間移動していた。

 

「ど、どう言うことだ……確かに俺のiビームを喰らっていた筈なのに……」

 そう言って、焦るピュータ。


 フランはにいっと笑って言った。

加速装置ブースター……これがあたしのスキルなんだ……超高速で移動できるのさ」

 

加速装置ブースター……だと……」


「今よぽろたん!」

 フランは叫んだ。


「任せて!」

 少し離れた所にいたぽろたんはそう言って笑った」


 ぽろたんはそれまで杖を構え、ずっと詠唱に集中していた。

 そして今、その詠唱が終わったのだ。


「召喚!火竜サラマンダー!」


 ぽろたんが唱えると、ぽろたんの周りの空間が歪んで行く。

 そして、空間が裂け、中から火に包まれた巨大な竜がその姿を現した。


「さ、サラマンダー……だと!ばかな!」

 焦るピュータ。


「お兄ちゃん……逃げて!」

 叫ぶチサ。

 

「だめだ、PTパーティのだれかが戦闘不能リタイアになったら、PTパーティメンバー全員が失格になるルールなんだ。それに、俺はチサを置いて逃げる様な事はしない!」


「お兄ちゃん……」


 そう言っている間に、サラマンダーはその全身を空間の裂け目から顕にして行く。

 その姿は、ピュータの乗るロボットの何倍もの大きさだった。

 

地獄の火炎エルファイア!」

 ぽろたんは叫んだ。

 

 サラマンダーが火炎を噴いた。

 あっという間に辺りは火の海に包まれ、チサとピュータの二人はその業火に焼かれた。

 

「熱いよ……お兄ちゃん……」

「チサ……しっかりしろ……ちさっ!」


 チサの姿は、瞬く間に光の粒子に代わり、消滅した。

 

 ピュータの乗るFOMA P900iも既にボロボロになっていた。

 

 地獄の火炎エルファイアが消えた。


 辺りは一面、焼け野原になっていた。

 

 

「お、お前ら……見た目に反して……なんて奴らだ……俺たちのまけ……だ……」

 そう言って、ピュータもまた消滅した。

 

 ぽろたんは、その場に崩れ落ちそうになった。

 慌ててフランが走って行き、ぽろたんを抱きとめた。

 

「ぽろたん……大丈夫?」


「うん。大丈夫。ちょっと疲れただけ……いそがないと……」


「そうだね、行こう。時間がない……」



 ——エリア03 市街地の封鎖まであと30秒……25……20——

 

 

 無機質なアナウンスが流れ続ける中、フランはぽろたんを支えながらゲートに向かって歩いていた。

 しかし、ゲートまではまだ距離があった。


 フランは、ぽろたんを背負った。

 

 

——あと5……4……3——



「……間に合わない、スキル使うよ。」


「うん」



加速装置ブースター!」


 

 フランが叫ぶと、フランとぽろたんの姿は消えた。

 

 フランは、ぽろたんを背負ったまま超高速でゲートを通過した。

 

 

 ——……0 エリア03を封鎖します——



 市街エリアは真っ赤な光に包まれて、その後消滅した。

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