第49話 戦闘開始

 小夏フランまどかぽろたんは、ザラートワールドにログインした。

 

 

 フランは、露出の多い戦士風の衣装をしていた。

 ぽろたんはローブ姿の魔法使いだ。

 

 

 二人はPTパーティを組み、ザラートワールドの宿屋から大会のコンテンツへの参加ボタンを押した。



 すると、会場となる場所へ瞬間移動テレポートした。

 一瞬視界が真っ暗になって、すぐに開けた。



——予選・START——



 そこは市街地のような場所だった。

 

「市街地エリアみたいだね」

 フランは隣にちゃんとぽろたんがいるのを確認した。

 

「そうだね……」

 ぽろたんもフランを確認するかの様に、お互い顔を見合わせた。


 

 フランとぽろたんはそれぞれ、スマホ型の情報端末を取り出した。

 大会にエントリーした時に、アイテムボックスの中に送られた物だ。

 

 端末には、現在地のマップ上にPTパーティを組んでいるメンバー同士の場所が表示されている。

 

 他には、会場内にあと何人プレイヤーが残っているかや、場外エリア情報などの簡単な情報が表示されている。

 プレイヤー数は100/100になっている。

 場外エリア情報も空のままだ。

 

 これからどんどん更新されて行くのだろう。

 

「私たちの場所はお互いにわかるけど、他の人達がどこにいるかはわからないみたいだね」

 フランが言った。


「うん。すぐ近くにいるかもしれないし、いないかもしれないけど……」


 ぽろたんが言った時だった。


 

 タタタタンッ……


 

 遠くの方で、乾いた銃声が聞こえた。


 

「ぽろたん!大会はもう始まってるんだ、敵が近くにいるみたい。急いで隠れよう!」


「うん!」


 二人は、慌てて周囲を見回した。

 周りには、ビルが立ち並んでいる。


 人の姿は見えなかった。

 

「とりあえず、あのビルの中に隠れよう」

 フランはそう言って、手近なビルの入り口に走り出した。


「フラン待って!」

 ぽろたんが慌てて呼び止める。

 

「え?どうしたの?」

 フランは立ち止まって、ぽろたんの方を振り返った。

 ぽろたんはビルの入り口を睨んでいた。


「あのビルの中、待ち伏せしている人がいる……」


「マジ?」


「うん、気が付かないで中に入った所を狙うつもりだよ」

 フランとぽろたんに緊張が走る。



「待ち伏せなんて卑怯よ!出てきなさい!」


 フランはビルの入り口に向かって叫んだ。

 少しの間、何も音沙汰はなかったが、フランとぽろたんが動かないでいると、やがてビルの入口から、ぬっと男の姿が現れた。


 

「ふ、俺の姿に気がついたのは、お前達が初めてだぜ……褒めてやるよ」


 男は、頭にターバンを巻いてマントで全身を覆っている。

 手にはナイフが握られていた。

 

 ぽろたんは男に向かって言った。

 

「開始エリアはランダムだけど、この市街地エリアにプレイヤーが出現するポイントは、ある程度決まっているのよ。それを利用して、銃声でまず脅かせておいて、手近なビルの中に隠れようとした所を待ち伏せるなんて、卑怯じゃない」


「ははは、そこまで見抜いているとは、なかなか賢い娘だな。如何にも、その通りだ。だがな嬢ちゃん、忘れてもらっては困るよ。ここはなんでもありのバトルロイヤルだ。卑怯だなんて言っていたら、すぐにゲームオーバーさ!」


 男は笑いながら言った。

 

「さあ、どうかしらね。私たちを甘く見ると、そっちこそすぐゲームオーバーよ」

 フランは胸を張って満面の笑みで男に言う。

 

「けっ……だったらお望み通り殺してやるよ!」

 男はナイフを構え、飛び掛かってきた。



——時は、一ヶ月ほど前に遡る。



 フランは、レンの特訓を受けていた。

 

「フラン、君のスキルはなかなか良いよ。でも、スキルに合う武器がないと勝てないんだ。だからこの武器を渡しておくよ」

 

 レンはそう言って、フランに細身の長剣を渡した。


「これは?」


「ヴァイスブレード……魔法剣だよ」


「魔法剣……」


「ああ、このヴァイスブレードと、君のスキルが組み合わさればきっと負けないよ」


「でも、良いの?あたしなんかにこんな武器を……」


「ああ。思う存分に使ってやってくれ。それと、もう一つ君に技を教えようと思うんだ」


「技……ですか?」


「ああ、ヴァイスブレードの魔法剣は強力だけど、なるべく予選では他プレーヤーにスキルを見せない方がいいと思う。決勝を見据えるなら、まずは通常技を磨いて予選を勝ち抜くんだ」


「なるほど、必殺技は、決勝まで取っておくんですね」


「そう、そして、予選で役に立つ技を教えておくよ。その名を……」


「その名は?」


「その名は……パリィだ!」



——時は、再び今に戻る。



「けっ……だったらお望み通り殺してやるよ!」

 男はナイフを構え、飛び掛かってきた。


 フランはヴァイスブレードを抜いて、構えた。

 

 男はナイフを振り上げ、フランに向かって振り下ろした。

 

 カンッ

 

 甲高い音が響き渡り、フランは男のナイフを軽々と弾き解す。

 そして、帰す刀で男の胴を真っ二つに切り裂いた。

 

「なっ……!」

 男は地面に倒れ、光の粒子となって消えた。


 情報端末のプレイヤー人数が100から99に変わった。


「へへっ……これが……パリィよ!」



——その少し前。



 ミオは、ザラートワールドにログインして、宿屋にいた。

 ミオの姿は、体にピッタリとフィットしたボディスーツに軽い装甲プロテクターが着いた、動きやすい服装で、背中には大きなスナイパーライフルを背負っている。

 

「センパイ、そろそろ大会はじまるので、行きますね」

 ミオはインカムに話しかけた。


「ああ、僕の分も暴れてきてくれ」

 声の主は、レンであった。

 

「フランとぽろたん……でしたよね。先輩の教え子にも容赦しませんからね」


「もちろんだよ。大会が始まったら、全員敵同士なんだ。手加減は必要ないよ。あの子達にもそう言ってあるからね。でもあの子達を甘くみない方がいい」


「それはわかってます。だって、センパイの教え子だから。……私も全力で戦います」


「うん、僕はどっちも応援してるよ」


「ずるいですセンパイ……では、そろそろ切りますね。大会が始まったら外部との通信はできなくなっちゃうので。でもちゃんと、モニターで私の活躍を見てて下さいよ」


「わかってるよ……ミオ、幸運をグッドラック


 レンとの通信は切れた。

 

「さーて、私も行きますか……」


 ミオは、大会コンテンツの参加ボタンを押す。


 ミオの体が消え、会場にワープした。

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