第46話 私が守るの

——ティーポット王国——


 ロイヤルブレンド城の客間では、ルフナ姫が紅茶を注いでいた。


 後ろにはメイド姿のリゼが凛とした良い立ち姿で控えている。


 ルフナ姫は、湯気がほかほか出ている注ぎたての熱い紅茶を入れたティーカップを、客の前にそっと差し出した。


 客間の豪華なに緊張した面持ちで座っているのは、冒険者、レンである。

 隣にはミオも同じ様に緊張しながら座っている。


「このお城にはいつ来ても、何だか緊張します」

 

「あら、なぜかしら?」


 紅茶にミルクを注ぎながら呟いたレンの方を、ルフナ姫は興味深げに眺めながら聞いた。


「うちは庶民でしたから、お城なんて自分には別世界だと思っていました」


「あら、でもVRゲームの中でお城には、良く行っていたのでは無いですか?」


「今までのゲームはこんなにリアルでは無かったですよ。いかにもドラマのセットみたいな安普請やすぶしんだと、逆に安心するんです。ゲームの中とは言え、こんなに豪華なお城に来る事になるなんて、予想だにしなかったな……」


「そうなんですか……そう言えば、依頼の品はお持ち頂けました?」


「そうでした。ここに来たのはこれを届ける為だったのを忘れるところでした」


 レンはそう言って、空中にウィンドウを出し、タッチジェスチャーでコマンドを操作した。


 レンの目の前のテーブルの上、何もない空間に光が溢れて次の瞬間、鳥籠とりかごの様な物体が出てきた。


 鳥籠の中には、小さなドラゴンが借りてきた猫の様に大人しく入っている。


「こちらが依頼の、ドラゴンのヒナです。どうぞ」

 そう言ってレンは鳥籠をルフナに渡した。


「レンさん、ありがとうございます。この子は我が王国のドラゴン養殖場ファームで大事に育てますわ」

 ルフナは愛おしそうに籠に入ったドラゴンの雛を見つめて言った。


 その様子をはたで見ていたミオが口を開いた。

「それにしても、非道ひどい人達がいるものですね。野生のドラゴンの雛を密猟して密売するなんて……」


「ええ、ザラート大陸には、密猟者や、あと、野生のドラゴンを殺して売り捌いてRMリアルマネーを稼ぐ悪どい人達が多いのです。私たち、ティーポット王国の主要産業はドラゴンの養殖と、正規ルートでの取引です。育てた飛竜をザラート大陸の竜騎士の皆さんに買って頂く事を国の基幹産業としています。それと同時に、この様な密売されるドラゴン達の保護もしているのです。レンさんには本当にいつも感謝してもしきれません……」


「そんな、お礼を言われると僕の方が困ります。こちらこそ、割のいいサブクエなのでいつも助かってるんですから」

 照れながら手をぱたぱた振るレン。


「センパイ……赤くなってますよ」

 そう言って肘でレンの脇腹を突くミオ。


「痛っ……ミオ……ちょっと手加減」

 本気で痛がるレン。


「できません」

 顔を膨らませるミオ。


 その様子をルフナはふふっと笑いながら、眺めている。


「ほんと、仲良いですねお二人は……羨ましいです」


「ええっ、そんな事無いですよ……ってちょっとミオさん……そこは鳩尾みぞおち……ぐぶっ」


「あ、センパイごめんなさいちょっと加減を間違えました……ああっ先輩の意識が……リゼさん回復魔法を!」


「はい、分かりました……回復ヒール


「……ううん、お、俺は……」


 放っておくといつまでも続くレン達の寸劇を眺めていたルフナだったが、ふと思い出した事を聞いた。


「そういえば、皆さんはバトルロイヤルモードには参加するんですか?」


 アップデートの話題は、ヴァシュランにいるNPC達の耳にも入って来ていた。

因みに、NPCはバトルロイヤルに参加する事は出来ない。

 NPCは負けると消滅ロストしてしまう為だ。


「うーん、面白そうだなとは思うのですが、三年はそろそろ受験に向けて勉強しないと行けないので、参加は見送ろうかと思っています。僕は、暫くはここでたまにサブクエをやるくらいですね」


「そうなんですか……勿体ないですね、レンくんなら優勝候補間違いないですのに」


「いえいえ、そんな事は無いですよ」


「はーい、私は参加しますよ」

 ミオが勢いよく手を上げる。


「あら、ミオさんも参加するのですね。ミオさんのエイムなら、優勝間違いなしですね」


「えへへ」

 ルフナに褒められてはにかむミオ。





——同刻・とある場所——




 どこかのガレージと思われる場所に、高校生くらいの若い男女が目の前のそびえ立つ鋭角的な人型のロボットを見上げながら言った。


 男の名前は、紗倉さくら 才汰さいた


「ふっふっふ……やっぱりだ。このステータス……当たりだった。俺の、『FフルメタルOオペレーティングMメカニカル Aアーマー、P900i』……この攻撃力と防御力は凄いな。最も、スピードが弱いのが玉に傷玉にキズだが……」


 女の方は、紗倉さくら 知里ちさとと言った。

 二人は、兄妹だった。

 知里は、兄にそっと抱きついて囁くように言った。


「大丈夫……お兄ちゃんは、私が守るの……この盾で……だからFOMA P900iで思いっきり戦って!」


「ああ。知里……期待してるぞ……この戦い、優勝するのは、俺たちだ!」

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