第42話 送迎
そしてコーヒー豆を手動ミルで引いた後、お湯を沸かしてサイフォンでコーヒーを淹れる。
焙煎したコーヒー豆独の苦味と酸味、そしてカフェインをたっぷりと堪能しながら朝のワイドショーを見ていると、唐突にスマホが鳴った。
「市倉さん、今到着しました。今から出られますか?」
電話の主は
鈴音が時計を見ると、時刻は朝九時ぴったり。
時間通りの男である。
「うんわかった。今、行くわ」
鈴音はそう伝えて電話を切り、クローゼットからカーディガンを取り出して羽織る。
バッグと鍵を持ち、玄関を開け、戸締りをしてアパートの外に出た。
アパートの外の路上には、真っ赤なスポーツカーが停車してハザードランプを点滅させている。
車の横には
八朔はラフなポロシャツ姿で、濃い色のサングラスをしていた。
「なにこの凄い車……ウチの会社の車こんなだった?」
その車はワックスでピカピカに磨き上げられていた。
地面スレスレまで車高を下げた真っ赤なボディと、細くて大きい偏平タイヤを支えるマットスモークのホイール、そしてシンプルながらもボンネットの中央にその存在感をはっきりと示しているネオマツダのエンブレム——絵に描いたようなスポーツカーである。
「ネオマツダのNEO-RX-8っす。社用車は先日FCVエンジンがイカれて廃車になったので、新しい車が来るまで
八朔はやや興奮気味に早口で語る。
どうやら車が好きらしい。
「知らないけど……あまりスピード出しすぎないでよ」
「わかりました。では行きましょうか」
八朔がキーのボタンを押すと、NEO-RX-8のガルウイングが上方に開いた。
鈴音が助手席に乗り込むのを確認してから八朔は運転席に乗り込む。
再び八朔がボタンを押すと、ガルウイングの扉は自動でゆっくりと閉まった。
「なんか、過去とか未来にまで行けそうね、この車」
鈴音は車の事には疎い。
何か難しい機械がゴチャゴチャ付いてるなとしか思えない。
もし急にこれを運転しろと言われても絶対に無理だ……そう思った。
「ふふっ、行きませんよ。
八朔は笑いながらクラッチを踏み、シフトレバーを
派手な爆音を響かせながらNEO-RX-8は発進した。
「うわ……近所迷惑だわー。どうか誰も見てませんように」
鈴音は手にしたバッグで顔を覆い、近所の人に見られていない事を祈った。
車は猛スピードでネオトキオの街を駆け抜け、会社に向かった。
——ネオイオギ・スタジオサンクエン——
「会社に到着しました。鈴音さん、そのまま会議室に行ってください。僕はこの車を駐車場に停めてから向かいます」
八朔は運転席のスイッチを操作して鈴音の側のドアを開け、掛けていたサングラスを外しながら言った。
「もう、みんな揃っているの?」
「ウチの会社の人たちは皆来ているはずです。ゲーム会社の人がまだ来ていない筈なので、それまでに軽く資料に目を通しておいて下さい」
「わかったわ」
鈴音は車から降りて、目の前の会社に向かって歩いて行った。
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