第二部

バトルロイヤル篇

第41話 ある朝

 ——第二部——

※第二部は主人公が変わります。



 —某日、朝——



「……おはよー」


 眠そうな目を擦りながら寝巻き姿の小夏が起きて来た。


「小夏、早く食べて!遅刻しちゃうよ」


 まどかがトースターからパンを取り出し、皿に持って勢いよくテーブルの上に置いた。


「もー、まどかはせっかちなんだから……あれ、鈴姉、今日は早いね。いつもは寝てる時間なのに」


 鈴姉……とは、小夏とまどかが市倉鈴音を呼ぶ時の愛称である。


 鈴音は既に起きてテーブルで朝食のパンを頬張っていた。


「まあね……今日は午前中にゲーム会社の人と打ち合わせがあるのよ。9時に八朔はっさく君が迎えに来るから、それまでに洗濯と化粧を済ませないとねー」


 八朔君……と言うのは、鈴音が勤めるアニメーション制作会社の制作進行である。


 八朔は新作ゲームのアニメーションパートの打ち合わせの為に、鈴音を会社まで送迎する為に家に来るのだ。


「ふーん、夜遅くまで起きてるのに大変だねー」


 小夏は言いながらマーガリンを塗りたくり、パンにかぶりつく。


「え?鈴姉さん、新作やるの?」

 まどかは鈴音の話に興味を示している。


「ええ、なんでも乙女ゲームの新作でアニメパートを会社ウチがやるらしいわ」


「鈴姉さん、キャラ表貰ったらわたしにも見せて」

 まどかは目をキラつかせて鈴音にせがむ。


「わかったわかった。けど、他の人には内緒よ。最近はコンプラ厳しいんだから」

 

「うん、約束する」


「あらもうこんな時間じゃない、今日は私が食器洗っておくから、二人とも早く学校行きなさい」


「はーい、やったー鈴姉が洗ってくれるー」

 喜ぶ小夏。


「小夏、あんたはいつも洗ってないでしょ……」

 呆れるまどか。


「今日鈴姉が食器当番やってくれるから明日はあたしやらなくても良いよね!」


「どう言う理屈よ……て言うか早く制服に着替えてきて。わたしまで遅れちゃう」


「はいはい……」


 言いながら立ち上がって、部屋に戻って行く小夏。



「はあ……鈴姉さん、毎日騒がしくてごめんなさい」


 まどかは既に制服に着替えを済ませて、いつでも出られる様に、準備は終わっている。


 この春、小夏とまどかが鈴音の家に越してきてから毎日がこの様な騒がしい日常である。



 「気にしないで。私は一人っ子だったから、兄妹に憧れてたの。だから今は楽しんでいるのよ」


「それなら良いけど……小夏ももう少ししっかりしてくれたら良いのに」


「ほんとにね……ふふっ」

 笑う鈴音。



 小夏は着替えながら、バタバタと部屋から出てくる。


「おまたせー。まどか行くよ」


「はいはい」


「あ、そう言えば鈴姉さん!」

 靴を履こうとしていた手を止め、慌てて鈴音に話しかける小夏。


「どうしたの?」


「今日は学校帰りにVRセンター寄ってくるから、帰るの少し遅れると思う」


「あー、はいはい。ザラートワールドね」


「うん。まどかと一緒にレベル上げてくるね」


「えっ……わたしも?」


「当然でしょ。あたしゲーム下手だから、まどかがいないとすぐ死んじゃうもん」


「いや、小夏は何も考えずに敵に突っ込んで行くのが……」


「じゃ、鈴姉、行ってきまーす」


「あ、ちょっと待ってよー、鈴姉さん、行ってきます」


「行ってらっしゃい」



 バタバタと出て行く小夏とまどかに手を振って見送る鈴音。



「さて……と。洗い物しよっかな……」


 鈴音はテーブルの食器を片付け始めた。

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