第39話 トロイの木馬・3
小春は話を続ける。
「星暦0050年、この年は私と甘王が出会った年でした。まだ高校生だった私は、若干二十歳の天才科学者、福羽甘王博士にどうしても会いたくて、何度も博士の研究室のあるビルに通ったのだけれど、いつも門前払いを食らってました。ですが、その時はやってきました。私が書いて
顔を赤らめて馴れ初めを話す小春に、「小春……また話が逸れてるよ……」とステラが小声で言うと、小春はハッとなって咳払いをした。
「えー、余談はこれくらいにして、本題に戻りますね。西暦0050年、
ぱちぱちぱち……と誰ともなく拍手をする。と、他の科学者も拍手をし始め、やがて化学者達全員が拍手をした。
「宇宙戦争の終結と共に、
小春はそこで一息ついた。
甘王を思い出すように天井を見つめた後、再び向き直って話し始めた。
「……それから5年が過ぎた星暦0065年、甘王は『エピスオメガ』のテスト中に3.1次元の世界にフルダイブしたまま、行方不明となったのです」
会議室の科学者達がざわめく。
福羽甘王の死はニュースで伝えれれた為、3.1次元研究に携わっているものならば誰もが知っている事実である。
しかし、実際は甘王は死んではおわず、3.1次元に行ったまま行方不明になっていた……と言う事実に驚きを隠しきれない。
「甘王はあの日、3.1次元の向こう側に行って帰って来ていません。体は今も病院のベッドの上で、意識を失ったままです。政府はこの事実を公にしない為、甘王は死んだ事にされてしまいました。私は一時抗議しましたが、事実が明るみになれば3.1次元への市民の不安が増すことになる、そうなればエピスシステムの研究そのものができなくなる可能性があると説得されました。甘王を探す為には、研究そのものは続ける必要があったのです。私は政府の決定に、渋々従いました」
なんという事だ……かわいそうに……など、科学者達は口々に独白している。
小春は科学者達のざわつきが収まるのを待って、再び話し始めた。
「私は研究室に戻り、再びエピスシステムの開発に参加しました。星暦0070年、甘王の残したエピスオメガを元に、それを民生用に転用した『エピスシグマ』を開発し、完成させました。エピスシステムは元々軍用のシステムですが、エピスシグマは主に社会のインフラやゲーム用途に使われるように設計している為、3.1次元に
小春は話終え、一息ついた。
「ありがとう博士。これがエピスシステムの概要ですね」
アステルパーム、ネオテーム、アドバンテームの三人のAIが口を揃えて言う。
「ええ。まとめると、現在使われているのは、軍用システムは天王が開発した『エピスオメガ』で、我々の次元と似て非なる別次元、3.1次元の世界に
「今話題のゲーム、『ザラートワールドオンライン』はエピスシグマで開発されている……という訳ですね」
「ええ、そうです。といっても私はエピスシグマの完成後に研究室を出て独立、
「博士の娘さん、古都華さんがあの
「あれは民間の『ザラートゲームズ』が開発したVRのゲームソフトね。詳しくは知らないけど、民間のシステムはエピスシグマにしか接続できないようになっていると思うわ。3.1次元に接続はできない筈だけど?」
「ところが博士、どうもその辺りが怪しいのです」
「怪しい?」
「ザラートワールドに最近実装された『ヴァシュラン』というコンテンツはご存じですよね」
「もちろん。私の娘はそこでこの
「どうやらヴァシュランでは、本体であるザラートワールドとは全く異なるプログラム言語で動いているようなのです。そこのNPC達はかなり知能が高く、まるで本物の人間そっくりな思考パターンなのだそうです。しかも同じ人物は二人といない。そしてNPCなのに死んだら復活できない……というシステムなのだそうです」
「まるで、そこだけ3.1次元を再現したような設定ね。そして、そこであの敵が現れた。確かに怪しいわ……でもあり得ない。VRエリアの特定の場所だけ3.1次元に接続するなんて理論上不可能よ。限りなく3.1次元に近い空間を再現している……というのならば可能かもしれないけど……そもそも誰が、何の為に……?」
「ええ。我々もそれが疑問です。おそらくあの敵は3.1次元の存在から抽出したプログラムに間違いありません。しかし、完全な3.1次元の存在ではなかった。それに、3.1次元人であるホランデーゼ共和国とは今は和平がなされています。何者かが何かを企んでいるにしても、何をしようとしているのかがわかりません……テオネーム、わかるかい?」
今まで口を揃えて話していた三人のAIだったが、ネオテームのみが口を開いた。
「わからない……ゲームにリアリティを持たせようとするのが開発者の意図なのか……それとも誰かの陰謀なのか……アドバンテームはどうだい?」
今度はアドバンテームが話す。
「ホランテーゼ共和国側にもそれとなく問い合わせて聞いて見たのだけれど、特に得られる収穫はなかったが、少なくともあちら側からの攻撃ではなさそうだ」
今度はアステルパームが喋り出した。
「二人ともわからないか……
「はーい」
「わかったわ」
三人のAIに対して、ステラは軽い口調で、小春は神妙にそれぞれ返事を返した。
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