第26話 美味しく焼けました
レン達は村に蟹を運び込んだ。
村長の計らいで村の中央に薪を焚べ、その上に巨大な鍋が設置された。
村で採れた野菜と一緒に蟹を煮込んだ蟹鍋が村人達に振る舞われた。
レンとシュバルツ、コトの三人も村人に混じって鍋を囲む。
「皆さんのおかげで、村を荒らしていた
村娘がレン達に、木製の椀とスプーンを手渡す。
「ありがとう」
レンは腕に蟹鍋を装い、スプーンで掬って口に入れる。
「美味い!」
レンは一口食べてその美味しさに感動し、腕の中身を一気に平らげる勢いで食べ続けた。
「おいしーい」
「うん、イケるわ」
シュバルツとコトも鍋に舌鼓を打つ。
二人とも、スプーンを動かす手が止まらない。
ヴァーチャルの世界では空腹は満たされないが、味は現実と変わらぬ味覚が再現されている。
現実の食事よりも旨く感じる様、感覚に補正が入っている為、食事も重要なゲームの要素の一つになっている。
「そう言えばコトさん、時間は大丈夫なんですか?」
シュバルツがコトの方を見て言う。
既に辺りは暗くなっていた。
現実世界でも恐らく夜、8時は回っている頃合いだろう。
レンとシュバルツは相棒を組んで長い為、お互いの帰る時間をだいたい把握している。
VRセンターを出て家に帰る時間を考慮して、遅くなるまでに切り上げるように、習慣が付いていた。
だが、コトがどのくらいまでゲームにログインできるのかは分からない。
そもそも、門限があるのかも不明だが、あまり遅くなると家の人が心配するかもしれない。
「ああ、時間は心配いらないわ。私は既に家に帰ってるから」
シュバルツの心配を
「帰っている……んですか?」
思わず聞き返すシュバルツ。
「ええ。私は元々、自分の家からログインしてるから、帰る時間は気にしなくても良いのよ」
「コトさん、自分の家にVRの設備があるんですか!凄い……」
驚くシュバルツ。
無理もない。
脳に接続するタイプの、フルダイブVR装置は一般家庭にはまだ殆ど出回っていない。
設備そのものが高価な上に、VRカプセル本体とコンピュータ含めるとかなりの場所を取る為、設置には工事が必要になるのだ。
更に、電源とネット配線も専用の物に替えなければ行けない為、その為の工事と契約も必要になるのだ。
例えるなら、カラオケボックスを自宅に設置して、専用の端末を自宅にひいている様な感じなのだ。
その上、年に一度、専用の行者による安全性能のテストが必要な為、設置のみならず、維持の為の費用もかさむのだ。
その為、余程の好事家でない限り、自宅にフルダイブVRの機材を設定している事はなく、VRセンターに出向いて楽しむのが一般的である。
主にカラオケやネットカフェの様に、駅前や郊外のVRセンターを利用するのが一般的なのだが、最近では、完全個室で高級ベッドを使う事が出来、専用のスタッフが常駐している、高級サロンの様なVRルームも増えて来ている為、お金持ちはそちらを利用する事が多い。
「まあ、ウチの親がVRシステムの開発してる都合で家にデバッグ用のデバイスルームがあるの。だから私は親の部屋にあるのを使わせて貰ってるのよ……」
言いながら照れるコト。
「だから、私の時間なら気にしないで。二人の帰る時間の方に合わせるわよ」
「じゃあ、僕たちはあと1時間くらいしたら
時刻は夜の八時を回っていた。
「分かったわ」
とそこに、村長と思わしき老人がやって来た。
「おぬし達、冒険者じゃろ。その腕っ節を見込んで一つ、頼みたい事があるんじゃが……話を聞いてくれんかの」
「あ、はい。良いですよ」
「実は……この村の先に洞窟があって、そこに最近、
「そうなんですか」
「そこで、王家の方に何度か駆除して貰えないかと打診しておったのじゃが、一向に
レンは小声で隣のシュバルツに囁く。
「これは、クエストかもしれないね」
「そうですね。」
「しかし、ちょうどお主達が来る少し前に、
「構いませんよ。場所は——」
村長はレンに洞窟の場所を説明する。
さほど時間は掛からなそうだ。
「
レンはシュバルツとコトを見る。
「行きましょう先輩!」
「
二人ともやる気だ。
「よし、じゃあ早速向かうとしよう」
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