第27話 ティーポットの姫とメイド

 レンとシュバルツ、コトの三人は森の中を歩いていた。

 


「ねえ、レン。村長が言ってた洞窟って……まだなの?」

 コトは先頭を行くレンに問う。



 日はすっかり暮れ落ちて、辺りは真っ暗である。


 

「もうすぐ……だと思う」


「本当にこの道で合ってるんでしょうね?」


 

 三人とも、遅くなる前に依頼を終わらせて早くログアウトしたいと焦っていた。



「地図によると、この道であってるはずだよ……」



 その時である。


 遠くの方から、金属と金属がぶつかり合う甲高い音がかすかに聞こえる。

 


「戦闘……?」



 レンは耳を澄まして音を聞き取ろうとする。


 金属音は断続的に鳴り続けていた。

 


「先輩、確か村長は、小鬼ゴブリン退治の先客がいるって言ってましたよね。その人達が今、小鬼ゴブリンと戦ってるんじゃないですか?」


 とシュバルツ。

 


「うん、きっとそうだ。……て事は、この道で間違いなかったね。『先客』ってのは、他のプレイヤーだろうか、それともNPCだろうか……シフォン、わかる?」


 レンはシフォンを呼び出して聞いた。

 

「うーん、この先には他のプレイヤーはいないみたいだよ。ヴァシュラン島のNPC達は自分たちで考えて動いているから、どういう行動をとるか分からなくて、私も把握できてないけど、きっとNPCだと思う」


「わかった。ありがとうシフォン。……NPCなら早く行って助けてあげないとだね」


「そうね。万が一、小鬼ゴブリンに倒されてたらクエスト報酬が減ってしまうわ。急ぐわよ」

 そう言ってコトはさっさと走りだした。慌ててレンも後に付いて走り出す。

 

「わわ、先輩……待って下さいよー」


 シュバルツも遅れて付いて行った。

 

 

 

——ゴブリン洞窟前・広場——



 森を抜けると、見通しの良い広場の様な草原が広がっている。

 小鬼ゴブリンの住まう洞窟は、すぐ目の前にある。



 草原には、若い女性が二人、立ち止まっていた。

 

 

 そして、その周りを、二十匹程の小鬼ゴブリンが取り囲んでいる。

 

 

 「姫様、下がっていて下さい……ここは私が片付けます」


 「リゼ、ま、まかせるわ……」



 若い女性の一人、『姫』と呼ばれた方は、高価そうな白いローブに身を包み、意匠の付いた杖を両手で抱えている。

 背丈は小柄で細身、顔はフードに隠れて見えない。

 


 もう一人、『リゼ』と呼ばれた女性は、姫よりは背丈があるがこちらも細身で、丈の長いメイド服を着ている。

 メイド服は、襟元に赤いリボンが付いているのと、スカートの裾がフリルになっている以外は、シンプルな作りの黒のワンピースである。

 

 

「——剣よ!」

 

 

 メイドの女性——リゼは、叫んで腕を天に掲げる。

 すると、先ほどまで何も持っていなかった筈の腕に、長剣が握られていた。

 

 

 収納魔法ストレージャーである。

 

 

 リゼは、この収納魔法ストレージャーにより、空間に物を収納しておく事ができる。

 収納した物は、いつでも取り出すことが可能だ。

 

 リゼは取り出した長剣を構え、小鬼ゴブリン達と対峙する。

 

 

「リゼ、がんばってー」

 姫は、緊張感のない声で、メイド姿の女性に応援を送っている。


「ルフナ姫様、そう言うのいいから、御自分の身を守っていて下さい」


 そんな姫の方を振り向く事なく、リゼは目の前の小鬼ゴブリンの1匹に剣を振り下ろす。

 小鬼ゴブリンはあっさりと真っ二つに切り裂かれる。

 

 

 ギギギ……

 

 

 周りの小鬼ゴブリン達が騒めき出した。


 二十対二で優勢を確信していた小鬼ゴブリン達であったが、目の前の相手が強いと言う事に気がついたようだ。


 しかし、小鬼ゴブリン達はそれ以上怯む事はなかった。



 ギギー!



 一人の小鬼ゴブリンの合図を機に、一斉にメイド姿の女性に飛びかかる。

 

 

 「ふん……莫迦ばか獣達けものめ」

 

 

 リゼの目が鋭く光る。

 

 

 次の瞬間、遅いかかってきた筈の小鬼ゴブリン達の脇をすり抜けていた。

 

 

 一刻の間を置き、小鬼ゴブリン達の身体が、バラバラに裂けて地面に落下していく。

 

 リゼの剣捌きによって、一瞬にして五匹の小鬼ゴブリンは死体と化した。

 

 間髪入れずに、リゼは次の剣を振るう。

 

 さらに、三匹の小鬼ゴブリンが葬られる。

 

 

 ギ、ギギー!

 

 

 慌てて一人の小鬼ゴブリンが、叫ぶ。

 それを聞いた他の小鬼ゴブリン達が、慌てて退く。

 

 小鬼ゴブリン達は、後退して体制を整える。

 再び、二人の周りを取り囲み、ジリジリと迫ってきた。

 

「一匹一匹は大した事ないが、さすがに数が多い……姫様を守りながらだと少々分が悪いな……」


「リゼ……私の事は構わずに戦って!」


「そういう訳にはいきません。私は姫様の戦侍女メイドなのですから」


 その時、レン達が二人の元に駆けつけた。

 

「大丈夫ですか?加勢します」



「どなたか存じませんが、助かります。では、あの小鬼ゴブリン達を退治するのを手伝って頂けますか?」


「もとよりそのつもりです」


 レンとリゼはそれぞれ剣を抜き、小鬼ゴブリンに向かって切り掛かる。

 

 コトとルフナは、援護魔法バフをかけて援護して行く。

 

 遅れてやってきたシュバルツ、後方から銃を構えて攻撃に参加する。

 

 

 そうして小鬼ゴブリンの群れは、瞬く間に一掃された。

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