第25話 カニ光線

 レン達一行はその後、エスカルゴを狩り続けていた。

 また、大きなウニが中に浮いているような見た目のモンスター『ウニ・オ・ウィスプ』という低レベル帯モンスターも同様に狩る。

 

 そうして、レン、シュバルツ、コトの三人は、順調にレベル7に上がった。

 

 すると、突然、レンの前にシフォンが現れて言った。

 


「レン、この辺りに、NノートリアスMモンスターが出現したみたいだよ。倒せば大幅レベルアップのチャンス!行ってみよう!」


「……だそうだよ。どうする?」



 レンはシュバルツとコトを見る。


 

「やってやりましょう先輩!経験値頂いちゃいましょ」

「そうね。サクッと倒して、ささっとレベル上げるわよ」


 二人とも、やる気に満ち溢れている。



「よし、NノートリアスMモンスター討伐に行こう。シフォン、案内してくれ」

「りょ」



 レン達一行はさらに海岸線を進んで行った。

 すると、巨大なカニが暴れているのが見えてきた。



 巨大カニは、NPCと思わしき村人数人と格闘中だった。

 

 

「あれは……戦闘蟹ファイト・クラブだな……」

 レンは遠目に暴れているカニを見て、思わず呟く。

 

 

戦闘蟹ファイト・クラブ?」

 シュバルツが聞き返す。

 

「ああ。ザラート大陸でも見かけるけど、あんなに大きいのは初めてだ。戦闘蟹ファイト・クラブは、動きは遅いけど、硬い甲羅に覆われてて防御が硬いんだ。大きなハサミを振り回して繰り出す一撃も、攻撃力が高くて厄介な相手モンスターだよ」


「そうなんですね」


「ああ。ハサミは殴るだけじゃない。あのハサミに掴まれると、身動きができなくなるんだ。片方のハサミで掴まれて、もう片方のハサミで殴られると厄介だ。それに何よりヤバいのは、あのハサミから放たれるレーザー光線。通称『カニ光線』だ。」


「カ……カニ光線……」


「ダサい……ネーミングね……」

 シュバルツとコトは苦笑いしている。

 

 

「うん。ネーミングはアレだけど、手強いから油断はできないよ。それに、あの大きさだ。威力も数倍増しになっていると思う。ちゃんと作戦を立てないと全滅しかねないよ」



「作戦……かぁ……コト先輩、どうします?」

 シュバルツはコトの方を見る。

 

「そんなの……決まってるわ。レンが囮になって突っ込んで行って、シュバルツと私でやっつける。それしか無いでしょ」

 コトはあっさりと言い切る。


「う……そ、そうですね……」

 レンは渋々頷いた。

 

「安心なさい。私がいるから、いくらでも回復してあげるわよ」



「仕方ない……他に手は無さそうだし、それで行きます」

 レンは戦闘蟹ファイト・クラブに、向かって走り出した。

 

 戦闘蟹ファイト・クラブは大きなハサミのついた腕を振り上げ、村人を吹っ飛ばした。

 さらに目から放たれるカニ光線レーザーによって、追い討ちをかけられる。


 他の村人達は、カニの攻撃力の高さに恐れ慄き、ジリジリと後ずさりだす。

 村人の一人が、走って来るレンに気づいた。

 

 

「あ、あんた達、冒険者か?頼む、あのモンスターカニを倒してくれ!」


「わかりました。皆さんはさがって下さい!」

 レンは村人達に叫びながら、カニに向かって走り続ける。

 動きは止めずに背中から盾を取り出し構える。

 

 戦闘蟹ファイト・クラブのハサミが村人の一人に襲いかかった。

 レンは村人の前に走り込む。

 そして、戦闘蟹ファイト・クラブの一撃を盾で受け止めた。

 

 

 ズンッ……

 

 

 戦闘蟹ファイト・クラブのハサミの動きは、盾で止められる。

 レンの足元が砂に埋まる。

 

「お、重い……」


 戦闘蟹ファイト・クラブの攻撃は予想外に強く、レンは盾で受け止めるので精一杯だった。


「先輩!そのまま持ち堪えてください!」

 シュバルツはウィンドゥから電磁銃レーンルガンを選択する。

 シュバルツの持っていたシュトロイゼルが消え、目の前に一回り大きな銃、電磁銃レールガン三脚トライポッド、スナイパーサドルが現れる。

 

 シュバルツは素早い手つきで電磁銃レールガンにスナイパーサドルと三脚トライポッドをセットし、地面に設置した。

 片膝を付き、電磁銃レールガンの照準を覗き込見ながらスイッチを作動させる。

 

『エネルギー充填開始……10%……20%……』

 

電磁銃がカウントアップを始めた。



 コトはシュバルツの傍で呪文の詠唱を開始した。

 回復魔法ヒールをレンに向かって連続で放つ。



 戦闘蟹ファイト・クラブの攻撃を受け止め続けて減っていたレンの体力HPが回復して行く。


 

「ねえ、あのカニ、炎で焼いたら美味しそうじゃない?」



 回復魔法ヒール合間クールタイム、コトはシュバルツに話しかけた。

 

「あ、確かに美味しそうです。コトさんって炎系の魔法って使えます?」


「んー、私は無理。シュバルツ君、炎系の弾丸とか使えない?」


「むりですー。あ、でもレン先輩、最近『魔法剣』を手に入れたんですよ。先輩なら……」


「それね!」


 そうこうしている内に、電磁銃レールガンのエネルギーが溜まった。

 


『エネルギー充填、300%……発射可能デス』



「えいっ!はっしゃ」

 シュバルツは雑な掛け声と共に電磁銃レールガンのトリガーを引く。


 電磁銃レールガンから戦闘蟹ファイト・クラブに向かって、激しく光るレーザーが撃ち込まれる。

 

 戦闘蟹ファイト・クラブ電磁銃ファイト・クラブの放ったレーザーに焼かれ、煙を上げながらその場に崩れ落ちる。

 

 しかし、まだ倒し切れてはいなかった。

 ボロボロになりながらも尚、立ちあがろうともが戦闘蟹ファイト・クラブ



「先輩!いまです。炎の魔法剣で止めを!」

 シュバルツが叫んだ。

 

「そうか、わかった」

 レンは手にしたヴァイスブレードに向かって呪文を唱える。

 

 レンが呪文を唱え終わると、ヴァイスブレードの刀身から炎が噴き出てきた。

 

 

「止めだ……火炎ファイアソード!」


 レンは叫びながら、戦闘蟹ファイト・クラブに向かって剣を振り下ろした。

 

 ゴオォォ……という低い唸りを上げながら剣に纏った炎は戦闘蟹ファイト・クラブを包み込んだ。

 

 戦闘蟹ファイト・クラブは今度こそ動きを止めた。

 

 

 そこにシフォンが現れ、言った。

 

「モンスター討伐成功だよ。そして、アイテム『蟹の丸焼き』をドロップしているよ」



「あれ……」


「わー、おいしそう」


「成功ね!」


 戸惑うレンと対照的に、シュバルツとコトは嬉しそうに手を取り合って喜んでいた。



 説明しよう。


 通常、モンスターを倒すと光の粒子となって消えてしまうのだが、倒した後、モンスターが素材やアイテムに変化した場合、消えないで残るのだ。

 

 今回は蟹のモンスターが炎で焼かれて食材と化した為、倒しても消えずに残っているのである。

 

 

 シフォンが続けて言う。

NノートリアスMモンスター討伐に成功したから、ボーナス経験値が入ったよ。レン、シュバルツ、コトはレベル12に上がったよ」


「先輩、今夜はカニ鍋にしましょー」


「この大きさなら、村人NPCたちと分け合ってもまだ食べ切れないほど残るわね……さ、村人達、私たちを村に案内なさい!今夜は宴会よ!」


 シュバルツはコトはもはや、経験値そっちのけでカニに目を奪われている。



 蓮は、そんな二人を見て呆れつつ、しかしまあ、これはこれで良いか……と一人呟いた。

 


 時間はやや遡る。



 放課後、生徒会室には、生徒会長の高麗仁と副会長の加賀しずくが残っていた。


 高麗仁は机の上に大量に積まれた書類の山に目を通し、判子を押している。


 加賀しずくは、自分の机に積まれた書類を持って仁の席にやって来て言う。


「会長、私の方の書類はこれで終わりです。後は会長が判子を押してくれれば、今日の作業は終わりです」


「わかっている……何でこんなに沢山の書類があるんだ……」


 仁は書類に一枚一枚、素早く目を通して判子を押す。

 しかし、かく量が多い。

 書類の山は一向に減らない。


「それは……今が予算編成の大事な時期ですので……どの部活動も予算を少しでも増やそうと必死なのでは……」


「うむ、予算案を認可するか却下するかは俺次第だからな……書類の厚さと文章の長さからは、どの部活にも熱意がこもっていると解る……とは言え、予算の総額は決まっているから、全ての部の言い分を認めてしまう訳には行かないのが辛い所だな……しかし、なぜ部活動の予算を生徒会長が決めてるんだ!」


「そこは……我が校の伝統ですから……仕方ないのでは……」


「俺も古都華と一緒にヴァシュランに行きたかったと言うのに……この調子だと、いつ行けるやら……だな」


「会長……古都華さんにも手伝って貰えば良いのでは?」


「それはだめだ。あの子はヴァシュランに行くのを楽しみにしていたんだ。俺は古都華の楽しみを奪う様な事は出来ん」


「私は手伝わされてますけど……」

 言いながら、しずくは茶をずずず……と啜っている。


「まあ、良いさ。古都華と一緒に行く事は出来なかったが、眺めるだけで我慢するとしよう」


「……?会長?どう言う事ですか?」

 しずくは、茶を啜っていたのを止め、仁の方を向き直る。


「ふっふっふ……知りたいか?よし、しずくには特別に教えてやろう。この生徒会室の隣には、歴代生徒会長だけが使える特別な部屋があるのは知っているか?」


「……初耳です」


「そうであろう。その部屋の存在と鍵は、歴代の生徒会長にだけ受け継がれてきた。極秘の部屋なのだよ」


「……嫌な予感がしますわね」


「では特別に案内しよう。ついてきたまえ」



 そう言って仁は立ち上がり、生徒会室の奥にある棚に向かう。棚に並んだトロフィーの一つを動かすと、ゴゴゴ……と音が鳴り響き、棚が横に動いて行った。


 動いた棚の奥から、扉が出現する。

 仁はポケットから取り出した鍵を、扉に付いた鍵穴に差し込む。


 ガチャリ……と音がして、扉が開いた。


「さあ、この奥が特別視聴覚室だ。きたまえ」

 仁は扉の奥に進んで行く。

 しずくも仁に続いて入って行った。


「こ、ここは……」


 しずくは、その部屋の様子に言葉が出ない。

 特別視聴覚室の中央の壁には100インチのモニターがあり、そこには古都華が映っている。



「ここは、生徒会長のみが使える特別視聴覚室……そして今は、ザラートワールドにいる間の古都華の様子がリアルタイムで見られる様になっている、俺専用の『古都華見守り室』となっているのだ」


「会長……き……キモいですわ……」

 しずくは本気で引いている。


「な、なぜだ!古都華は俺にとって妹同然だ。いつでも危険な目に会っていれば飛んで行ける様に見守っているだけだぞ……」


「会長……言えば言う程…… 墓穴掘るだけですわ……私、帰ります。後は一人で判子押し頑張って下さい」


「な、なぜだー」

 

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