ヴァシュラン篇・弐

第24話 レベル1

——ヴァシュラン港——



 後日、レンは改めてヴァシュラン港へやって来た。

 今日のPTパーティは、レンとシュバルツ・コトの三人編成だ。


 

「さあ、今日から本格的に探索ね。まずは何をすればいいかしら」

 コトは上機嫌で港の景色を楽しんでいる。

 

「そうですね……コトさんとシュバルツだったら装備は問題ないでしょうし、クエストがあれば……」



 レンが考え込んでいると、コトがレンの目の前までつかつかと歩み寄ってきた。

 レンの顔の前で指をびしっと立てて言う。



「そうそう、レン君……いや、レン」


「は……はい?」


「前から言おうと思ってたけど、私に敬語使わないでよ。クラスメイトなんだし」


「そ……そうですね」


「シュバルツ君にはタメ口なんだから、私にもタメでいいのよ……わかった?」


「う……うん」


 コトの勢いに、つい、レンはたじろいでしまう。

 

 

「わかったならよろしい、さて、クエストはどこからしら」


「うーん、初めて来る場所だから……こう言う時は、シフォンに聞いてみるよ。シフォン?」



 レンが呼びかけると、空中にシフォンが現れた。


 

「レン、呼んだ?」


「うん。この島の事を教えてくれるかい?クエストはあるのかな?」


「ちょっと待ってね……システムに問い合わせてみる」



 シフォンはそう言って、考え込むような姿勢で静止する。

 シフォンはシステムナビの役割を持っているので、サーバーに接続してオンラインヘルプを検索しているのだ。

 

 

 そして数秒後。

 

 

「分かったよ」

 

「どうだった?」

 

「この島、ヴァシュラン島は、今までいたザラート島とゲームのシステムそのものが違うんだって。ヴァシュラン島では、インタラクティブIロジカルLクエストQというシステムで、全てのイベントが処理されているんだ」

 

インタラクティブIロジカルLクエストQ……?つまり?」


「この島では、決められた場所にクエストがあるわけじゃないみたい。この島の住民NPCは私と同じで人工A知能Iが搭載されているの。自分達で考えて行動するから、クエストはNPCが自分で考えて発生させたり、リアルタイムで内容が変わったりするんだって」


「……へぇ」


「先輩……どうゆう事ですか?」

 シュバルツが聞いた。

 

「僕もよくわからないけど……この島では、NPCも生きていて、僕らプレイヤーと見分けがつかないって事なのかな」


「そうだよ。NPCの頭の上に名前も出てこないんだよ。すごいね」

 とシフォンが言う。

 

「そう言われると、ちょっと会ってみたいね。でもプレイヤーかNPCかわからないなら下手に話しかけられないな……」


「先輩、私レベル上げに行きたいな。早くこの銃を試し撃ちしてみたいんだ」

 シュバルツは、シュトロイゼルを手に持ち、優しくさすりながら言う。

 

「なら、港を出てすぐの海岸にいる敵が手頃だよ」

 シフォンが答える。

 

「行きましょう!先輩」


「そうだな……コトもそれでいい?」


「いいわ。どんな敵がいるか楽しみね」


「よし、決まりだ。行こう」




——ヴァシュラン海岸——



 レン達は、港を出て海岸沿いを歩いて行った。

 


 早速、人と同じ位の大きさの蝸牛カタツムリが2匹現れた。

  ザラート大陸では最弱のモンスター『エスカルゴ』である。

 


「あら、エスカルゴじゃない……楽勝ね」

 コトは言葉と裏腹に、落胆の表情を表情を浮かべている。


 

「先輩、私に撃たせてください。エスカルゴでは腕試しにならないけど……」

 シュバルツは早速シュトロイゼルを構える。


「うん。さっさとやっつけよう」



 レンが言うと同時にシュバルツの構えた銃口からビームが発射される。

 ビームはあっさりエスカルゴに直撃した——


 

 だが、エスカルゴはまだピンピンしている。



「あれ、ダメージ少なっ……なんで?」



シュバルツの元にシフォンがやって来る。



「そうそう、シュバルツ、ザラート大陸では女神ステラの加護でレベルに応じて強くなる設定なんだけど、このヴァシュラン島は、島全体が謎の障壁に包まれていて、女神ステラの加護が届かないんだ」


「えー、そうなの?」


「うん。ヴァシュランレベルが上がれば、レベルに応じて女神ステラの加護を取り戻せるようになるから、頑張ってレベル上げしてね」


「そういう設定なんだ……だからエスカルゴにも全然ダメージ与えれれないのか……」

 レンは関心している。

 

「でも所詮、エスカルゴはエスカルゴだし、一気に片してサクッとレベルあげましょ。光の槍アークホーリー!」

 


 コトが放った光の槍は、一体のエスカルゴを貫く。

 エスカルゴは光の粒子となって消えた。

 


「ふーん。ダメージはないけど、覚えたスキルは一応使えるのね」


「じゃあ、僕も行くよ」

 レンはヴァイスブレードを抜き、もう一体のエスカルゴに切り付けた。


 エスカルゴは真っ二つになり、同じく光の粒子となって消えた。


 直後、レベルアップを知らせるファンファーレがレン達の頭の中に響いた。

 

 

 【レベルアップ】


 ・レン——レベル2

 ・シュバルツ——レベル2

 ・コト——レベル2


 

 レン達の目の前に、レベルアップを知らせるウインドウが現れた。

 

「おー、レベル上がったね」

 喜ぶシュバルツ。

 

「さ、この調子で、サクサク行きましょう。回復は任せてね」

 コトは杖を振り回しながら、先に歩いて行く。

 

「うん」



 レン達は暫く、海岸でエスカルゴを狩りつづけた。

 

 

 

 ——ゆるクロ・おまけ劇場——



コト「ところで、毎回思うのだけど、そのナビキャラ可愛いわね」


シフォン「ありがとー」


レン「そういえば、コトとシュバルツのナビキャラはどんなの?」


コト「私のは狸よ……名前は『エクレア』。最初はぶっさいくって思ってたけど、だんだん可愛く思えてきたわ……」


エクエア「ヨ……ヨロシ……」


レン「あれ、隠れちゃった」


コト「そうなのよ。人見知りするのよ、この子」


レン「ナビ出来てるのかなちゃんと……」


シュバルツ「私のは黒猫です。名前は『ガナッシュ』君。ちょっと小生意気なのが難点かな」


ガナッシュ「よう、俺はガナッシュだ。なんだよ、じろじろ見んじゃねえ」


シュバルツ「ね……」


レン「個性……豊か……だね」


シフォン「どう?レン、私でよかったでしょ?ふふんっ」


レン「う……うん。そうだね」


コト「言わされてるわね……」


シュバルツ「言わされてますね……」

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