第13話 なぜここに呼ばれたか、わかりますか?
ランブータンのジョブ、『
だが、それ故に防御には
一対一ならまだしも、
こうなった今となっては、ランブータンが取れる道は二つしかない。
一つは、安全な場所までテレポートする方法。
……しかしこの選択肢はなかった。
テレポートの魔法は詠唱に時間を要し、発動までにはかなりの時間がかかる。
詠唱中は無防備になる為、戦闘中には使うのは自殺行為な為である。
もう一つの方法は、
それは、
しかし、今、ランブータンは
ここから
二人が逃げられないように深くまで誘い込んだつもりだったが、実際は逆にランブータンが逃げられない様、エリア奥地に誘い込まれていた訳である。
……しかしまだ、ランブータンには切り札が残されていた。
目の前の、ライと呼ばれた金髪ショタの
「……ライさん、すぐそうやって調子に乗るのはいけないクセです。そんなだから古都華さんにも別れ話なんてされてしまうのですよ」
ロゼがメガネをくいっと上げながら言う。メガネが光に反射してきらっと光る。
「な……そ、それは関係ないだろう。だいたい、
ライはあたふたと、子供のように言い返している……実際、容姿は子供なのだが。
ランブータンは、今がチャンスとばかり、そろり、そろりと
そして、二人に背を向け、一気に走り去った。
「あの男……行ってしまいましたわよ……」
ロゼはちらっとランブータンの方を見た後、全く動揺を見せずに、ライにそう言った。
「全く……僕たち
ライは両手でやれやれと行ったポーズをする。
「もちろんですわ。レオポン、行くわよ!」
ロゼは、
ヴヴヴヴヴヴッと言う音がして、
ロゼは素早く
「ロゼ!今日は一発で決めるぞ」
ライはそう言って、小型の
ロゼは
「そう言って、一回で成功したの、三回に一回じゃないですか……アイス……掛けます?」
「ははっ……いいだろう。僕は当たる方に賭けよう。」
そう言ってから、ライは杖を目の前に構え、呪文を唱える。
ライの体が淡く光り、足元に黒い魔法陣が出現する。
周囲に風が巻き起こり、ローブが風に揺られてはためく。
同時に
ランブータンは
通常、
逃げ足の速さで
あと少しだ……あと少し……
あの二人から逃げ切って戦闘状態から解除さえされれば、テレポートなりログアウトするなり、その後の方法はいくらでもある。
「……くそ、いつかこの借りは必ずかえしてやるからな……
ランブータンは、走りながらも思わずそう呟かずにはいられなかった。
そのランブータンの姿を、
「ライ……あの男、いましたわ。準備はいいかしら?」
『ああ、魔力は十分練り上げた。ロゼ、いつでも発射可能だ』
「ライの位置から48.2度の方向、時速67kmで走っています。五秒後に座標X1035、Y5921」
「わかった……3」
「アイス忘れないでね……2」
「……1。発射!」
直後、上空から物凄い勢いで稲妻が疾り、地面に向かって一直線に伸びて行った。
遅れてドゴオォォン……という大きな重低音が鳴り響く。
……雷が落ちた場所には、ランブータンが倒れていた。
「ライ、お見事……ですわ」
『僕の勝ちだな……』
……暫く後、ライとロゼはランブータンとその仲間の二人の手に、手錠によく似た形状の装置を取り付けていた。
「拘束具、取り付けましたわ」
ロゼはライに報告する。
ライは拘束具がちゃんと嵌っている事を確認し、ロゼに向かって親指を立てる。
「そういう行儀の悪い事をしてはいけません」
「……はい」
ロゼに注意されてしょぼくれるライ。
「では、二人を転送します」
そう言ってロゼは拘束具についているスイッチを押す。
ランブータンと仲間の体がテレポートの光に包まれ、直後、消えた。
——
目が覚めると、ランブータンは一人、暗く、湿った場所にいた。
両手は拘束具によって固定されていて、動かせない。
部屋はやたら広く、四方を石の壁に囲まれている。
辺りは暗く、壁に設置されている蝋燭の炎だけが辺りを照らしている。
この部屋の事は、噂に聞いた事があった。
ここは、ゲームの運営を取り仕切る
通称、『
見上げると、天井だけは異常に高かった。
そして、目の前に十メートルはあろうかという大きさの石像が立っている。
石像の方から、頭の中に声が聞こえてきた。
「……なぜ、ここに呼ばれたか……わかりますか?」
「し、知らねえよ。俺は何にも悪い事はしていない!……なあ、信じてくれよ……」
ランブータンは石像に懇願する。
と同時に、密かにテレポートの魔法を発動させようとする。
——発動しない。
「無駄です。この部屋の中では、あらゆる魔法は一切の効力を発揮しません」
「ぐ……ぐうぅ……」
ランブータンはなす術なく、冷たい石床の地面に崩れ落ちた。
石像は話を続ける。
「ランブータン、貴方は
「俺は、チートやハックなんてしてねえ。お前
ランブータンは叫ぶ。
……しかし、石像の声色からは、一切の慈悲も憐れみも、まして同情さえも感じられない。
「それは関係ありません。これは、プレイヤーのマナーの話です。マナーを守れない人間は、私たちのゲームを遊ぶ資格はありません」
「……ふざ……けるなっ!」
「ランブータン、貴方のアカウントは永久停止させてもらいます。名前や住所を変えてアカウントを作り直しても無駄です。課金は現時点を持って解除され、支払いが済んでいる今月の分は、日割り計算されて貴方の口座に返金されます」
「ま、待ってくれっ……わかった。もうしない!誓うから……」
ランブータンの態度は一転し、今度は必死で石像に懇願する。
しかし、石像からは淡々と声が響くのみだ。
「……また、この情報は、『エピスシステム』を使用した他のゲームとも共有されています。他のゲームでも同様にアカウント剥奪となりますので、お忘れなく……それでは、二十秒後に強制ログアウトを開始します。20……19……18……」
「や、やめてくれ。VRゲームだけが俺の生きがいなんだ!出来なくなったら明日から何をして過ごせばいい?
そう言ったまま、ランブータンの姿は固まった。
そして、まるで石をハンマーで砕いたかの様に、その後、ランブータンの姿は灰となって、ボロボロと崩れ落ちた。
ランブータンの姿だった灰は、全て床に崩れ落ち、その灰はやがて消滅した。
部屋の中には、ランブータンを縛っていたはずの拘束具だけが残っていた。
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