第5話 ここをキャンプ地とする


 蓮はナビ妖精のシフォンと共にキャンプにテレポートした。


 そこには既にシュバルツがいた。


 丸太に腰掛けて焚き火に当たりながら待っていたシュバルツは蓮に気づいて、笑顔で蓮に手を振る。

 



 キャンプ——と言っても、蓮とシュバルツが勝手にそう名付けただけで、元はただの雑木林の中の空き地だった。

 

 


 蓮はある時、野良PTパーティに参加して、とあるダンジョンを攻略した事があった。


 その時、偶々PTパーティのメンバーの中に、シュバルツがいた。


 

 パーティのメンバー、蓮が戦士ウォリアでタンクを務め、アタッカーが二名、ヒーラーが一名の基本構成だった。

 シュバルツはアタッカーとして、銃士ガンナーのジョブでPTパーティに参加していた。



 シュバルツの見た目は、中肉中背な四十から五十くらいの中年のおっさんで、パナマハットの中折れ帽子を目深にかぶり、顎下には濃い髭を蓄えていた。

 

 そして装備の見た目は、ボロボロのポンチョとやたら大きめのマフラーに身を包み、ジャラジャラと音の鳴る長いブーツを履いている。


 装備は、腰に左右2丁の拳銃をぶら下げ、背中には身の丈程もある砲身の長い電磁銃レールガンを背負っていた。


 なかなかに目立つ格好だったので、最初からPTパーティメンバーの中でやたらと目立ってはいたのだった。



 ダンジョンを無事にクリアした後、そのPTパーティは解散となったのだが、その後で蓮は、シュバルツに声をかけられた。

 


 目深に帽子を被った髭面のおっさんに、野太く低い声で声をかけられ、一瞬だけ警戒した蓮だったが、すぐにその警戒は杞憂だと分かった。



「なあ……あんた、時間あったらちょっとレベリング手伝ってくれないか?」



 シュバルツは蓮にそう言った。


 銃士ガンナーは全身銃だらけなので圧倒的に火力が高く、PTパーティメンバーに居れば、アタッカーとして有能な働きをする。


 しかしその分、防御力は限りなく低い。装備できる防具もほぼ布な為、パラメータが攻撃に偏りすぎているのだ。

 

 その為、ソロでの戦いには向いていなかった。

 複数のモンスターと対峙した場合には防御が間に合わずにすぐ死んでしまうのだ。


 銃士ガンナーがソロで立ち回るには、モンスターが気がつかない遠方から狙撃して倒すか、モンスターが反撃する前に倒すしかできなかった。


 その為、銃士ガンナーは、ソロでの戦闘用では二人一組でPTパーティを組む、『相棒システム』を使う事が多い。

 


 相棒システムのやり方は簡単で、相方となるプレイヤーを見つけてパーティを組むだけである。



 相方がタンクであれば、銃士ガンナーの弱点である防御をカバーできて、銃士ガンナーの得意分野である攻撃に専念できるのだ。


 さらに『相棒』を組んだ相手同士でモンスターを討伐した場合、ソロで討伐した時よりも多くの経験値と報酬が得られ、どちらにもメリットがある。


 シュバルツは銃士ガンナーのレベルを上げる為に、相棒を組んでくれる相手を探していたのだ。


 

「いいよ。ちょうど僕もまだ時間が余っていたから、レベリングに付き合ってあげるよ」


 蓮はシュバルツの誘いを快諾した。


 

「ありがてえ。なかなか相手が見つからなくて困ってた所なんだ」

 シュバルツは大袈裟な身振りで喜び、すぐさま蓮にPTパーティの申請を送ってきた。



——シュバルツから『相棒』の申請が来ています。二人用パーティに参加しますか?


——<YES> /<NO>


 

 蓮は『YES』を選択し、シュバルツと共にモンスターを狩りに出かけた。

 

 

 蓮とシュバルツのPTパーティは、予想以上に相性が良かった。

 

 

 蓮がタンクとしてモンスターの注意を引きつけ、モンスターからの攻撃を小柄な盾で受け止める。


 そしてシュバルツは後衛からモンスターにありったけの攻撃を叩き込む。


 或いは、モンスターの攻撃力がそれほど高くない場合は蓮とシュバルツの二人がかりで攻撃に回り、モンスターを蹴散らしていく。

 

 蓮の戦士ウォリアは防御にも攻撃にも向いているが、その分パラメータが平均的になっており、攻撃力の高い一撃必殺なスキルに乏しい。

 ソロでの戦いではモンスターの防御力が高い場合、決定的なダメージがなかなか与えられず、長期戦になってしまう事も多々ある。


 しかし、攻撃力の高い銃士ガンナーと組んだ事で、蓮自身にも攻撃バフが付与されていた。

 おかげで蓮の攻撃力も上がって、硬い敵にも攻撃がバシバシ決まって行く。


 蓮にとっても、ソロでは倒せなった格上のモンスターをも倒す事ができていた。


 そして、雑魚モンスターの群れは、蓮が引きつけてシュバルツの電磁銃レールガンで一掃する。

 

 シュバルツの経験値はいい感じに溜まって行き、バトルが上手く行った事で、お互いに上機嫌だった。

 

 レベリングが終わり、ギルドに帰ってレベルアップの申請をして、PTパーティは解散した。


 しかし、二人はそのまま、ギルドで話し込んでいた。


 

 猫耳のウエイトレスが、樽ジョッキに入った飲み物を二つ、蓮達のテーブルに運んできた。

 


「いやー、こんなに経験値を稼がせてもらって悪いな。こいつは俺の奢りだ。飲んでくれ」


 シュバルツは蓮に、樽ジョッキに入った飲み物を一つ薦め、自分も一つ手に取る。


 この飲み物、見た目は発泡酒に近いが、アルコールは入っていない。

 某テーマパークのバタービール的なアレである。


 

「僕の方こそ、楽しかったよ。それにソロで稼ぐよりかなり報酬が稼げたから、こちらこそありがとうだよ」


 蓮はそう言ってバタービール的なアレを手に持ち、二人は乾杯した。



 ——それが、蓮とシュバルツの出会いだった。



 その後も蓮とシュバルツは、二人で相棒を組み、モンスターの討伐に出かけるようになった。

 

 シュバルツのレベリングはあっという間に終了し、レベルMAXカンストに到達したが、その後も暇さえあれば二人でPTパーティを組んでモンスター討伐に出かけていた。

 


 ある時、二人は、出現地点が前もって予測できないNノートリアスMモンスターを狩る為にフィールド上をあてもなく彷徨っていた。


 

 他のプレイヤーが入ってこないような、僻地の森の中。

 そこに偶然、モンスターのいない空き地がある事を発見した。

 

「へぇ、この森の中に、こんな場所があったのか」


 蓮は、辺りを眺めて言った。

 森の中にあるその空き地の周りだけ木々が生えておらず、空からの陽光が降り注ぎ、草花が生い茂っている。

 

「ここだけ木が生えてなくて花が咲いてる。それにモンスターが出ないって……どういう事だ?」

 シュバルツは不思議そうに、生えている花を手に取る。


「うーん、もしかしたら、ここで何かイベントがある予定で開発していたけど、結局つくられなかったのかもしれない……知らないけど」


 実際に、そういう場所はこのザラートワールド内にいくつか点在している。ここもおそらく、その一つなのだろう。

 

「なるほど……忘れられた場所って事か」

 カッコよく言うシュバルツ。


「まあ、そんな所だろうね」


「よし、決めた。ここを、俺たちのキャンプ地とする!」


「は?」

 シュバルツの突然の提案に驚く蓮。


「誰も使わなかった場所なんだろ?だったらレン、ここを俺たちの秘密基地にしようぜ」


「なるほどね……いいじゃん、秘密基地。よし、じゃあHP回復用のアイテム【野営テント】を設置して、【テレポートポイント】も設定しよう。今度から、ここで待ち合わせだね」


「よし、じゃあ決まりだな!楽しくなってきたぜ」



 そうして、二人だけのキャンプ地が出来上がったのだった。

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