第4話 おかえりなさいご主人様

 その後も、古都華が前衛に立って進んで行き、アークホーリーをひたすら打ちまくる、そして、MPが切れたらそこで全滅する——という流れを何度か繰り返しただけだった。

 

 

「あー、すっきりした。満足したから今日はこれで終わりでいいわよ」


 古都華はPTパーティの皆にそう告げた。

 

 

「僕は、果たして必要だったんでしょうか……」

 蓮は呆れ顔で言った。

 

「もちろんよ。まあ、当初の予定とは違うけど……落ち込んだ時には皆でカラオケに行って、歌うのを聞いてもらうと、ストレス発散になって楽しいじゃない。それと同じだと思って!」


 杖をマイク代わりに握りしめ、歌う様なポーズをとる古都華。


「言ってる意味はわかりませんが……そう言う事にしておきます」


「じゃあ、この後は……皆で打ち上げにいきましょうか!」


「あ、僕はそろそろ帰ります。そろそろリアルにお腹空いて来たので、ログアウトして夕ご飯を食べたいので」


 蓮は適当に理由をつけて帰ろうとしていた。

 

「えー。もう帰っちゃうの?」

 子供の様にゴネる古都華。

 普段は優等生の古都華にもこんな一面があったのか……。


「あ、私も仕事が残ってるから、ここで落ちるわね」

 スズも蓮に便乗してきた。

 

「スズさん、こんな時間からまあ仕事とは……大変ですね」

 とハルが言う。

 時刻は夜の七時を回っている。


「ええ。どうしても今日中に終わらせておきたい物が残ってて……でもおかげで、いい息抜きができたわ」


「スズも帰っちゃうのー。仕方ない、じゃあ今日はここでお開きにしましょうか」


 それなりに名残惜しそうな古都華ではあったが、諦めは早かった。


「ええ、それではまた!レンくんにもまた会える事を期待していますよ」

 ハルは年配らしい落ち着いた声音で、微笑みながら言った。


「そうね。私も楽しかったからまた一緒にPTパーティ組んで遊んでちょうだいね」

 スズはそう言ってローブの裾を両手に持ち摘んで軽く持ち上げながら、軽やかに礼をする。



「はい、また次もぜひ、宜しくお願いします」

 蓮はいつもの野良PTパーティでする時と同じように、形式的な挨拶を返す。



 実際、次も呼ばれるかどうかはいつも分からないものだが、呼ばれなくても仕方はない。


 呼ばれたら呼ばれたでありがたい。


 だから、敢えて自分かは媚びる必要は無いが、無碍にする必要もない。


 野良PTパーティが長いせいか、蓮はいつもそう思う事にしている。



 そうして無事、PTパーティは解散し、PTパーティメンバーはそれぞれ、自らの宿屋に帰ったり、ログアウトしたりとばらばらになって行った。




——駅前のマンモスバーガー・店内——




 蓮はゲームからログアウトした後、駅前のマンモスバーガーでマンモスハンバーガーセットを食べていた。

 

 

「これ食べ終わったら、ザラートに戻ってソロでレアアイテム集めでもするかな……」

 などと、ぼんやりと考えていると……



「ピコン」



 蓮のスマホが、メッセージの着信を伝える効果音を鳴らした。

 

 蓮はマンモスコーラを飲みながら、スマホを手に取り、メッセージを読む。

 

 

『レン、今、暇か?宝の地図を手に入れたから、ちょっとトレジャーダンジョンに行こうぜ!』

 

 

 メッセージは、ザラートワールドでのフレンド『シュバルツ・ヴェルダーキルシュ』からだった。


 長いので蓮は『シュバルツ』と呼んでいる。

 

 

 トレジャーダンジョンは、宝の地図というアイテムを使った時だけ入れる、レアアイテムをゲットできるダンジョンである。


 敵やギミックは多いが、その分、最深部まで辿り着けばレアアイテムをゲットできる。


 願ってもない誘いだ。


 シュバルツからの誘いにすぐさま、オーケー、行こう!と返す蓮。



『じゃ、いつものキャンプで待ってるからな!』


 と、シュバルツからの返信が来た。


 蓮は残りのマンモスバーガーとマンモスポテトをマンモスコーラで流し込んで一気に食べ終えると、その足でまたVR施設に戻って行った。




——ザラートワールド内・宿屋——



 蓮は、ザラートワールドにログインした。見慣れた宿屋の部屋の中。目の前に手のひらサイズの妖精がいる。


 手のひらサイズの妖精は、丈の短いメイド服を着込んでいる。



「おかえりなさいご主人様!お風呂にしますか?それともわ・た・し?」


 目の前の妖精はそう言ってけらけら笑い、おどけて見せた。



「シフォン……わたしって……何する気だよ……もう、どこで覚えたんだ……あと、僕一応、未成年なんですけど……」


「ふぁ……城下町で客引きしてたお姉さんが言ってたんだよー」


「それ、違法な風俗VRへの客引きアカウントじゃ……」


「そうなのー?シフォンわかんない」



 蓮は呆れながらシフォンの頬を指でつつく。



 シフォンはシステムが作り出したナビ妖精である。


 本来はプレイヤーをゲームに誘導したり、システムの説明をする役割のただのNPCノンプレイヤーキャラクターなのだが、シフォンはそれだけではなく、人間と同じ様に物を考えたり、冗談を言ったりする事も出来るらしい。



「まあいいや、シフォン、シュバルツと待ち合わせているんだ。いつものキャンプまでテレポートしてくれないかな?」



「あら、今度は相棒さんと遊びに行くの?オッケー。あ、私もついて行って良い?」


「ああ、良いよ。シュバルツは君の事気に入ってるからね」


「じゃあ目を閉じてね……」

 蓮はシフォンに言われた通りに目を閉じる。


 目を開けると、蓮とシフォンはキャンプ地にいた。

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