第2話 メンバーを紹介します

——オレンジサーバー・冒険者ギルド——



「あ、蓮くん、こっちこっち!」



 蓮がギルドの中に入っていくと、既に古都華が仲間と一緒に待っていた。


 古都華は白いシスター衣装に身を包み、手には複雑な意匠の彫刻が先端についた杖を持っている。

 分かりやすいヒーラー装備だ。


 古都華の周りには、見た目三十代位と思われる男性と、二十代後半位と思われる女性がいる。



「初めまして……レンと言います」

 蓮は軽く頭を下げる。



 蓮は、ザラートワールド内ではレンというハンドルネームを使用している。


 蓮はあまり考えずに名付けて本名そのままなのだが、プレーヤーの中には凝った厨二名をつけている人も多い。



「蓮くん……ハンドルネームもレンくんなんだ」


「あ、うん。名前考えるのが面倒で、どのゲームでも結局レンでやってます」

 蓮は苦笑いした。


 「ま、私もだけど……私のハンドルは『コトカ』。よろしくね」

 そう言って古都華は軽く笑った。

 

「とりあえず、食事にしましょ。あっちに空いているテーブルがあるから、そこで自己紹介しましょう。レンくんの分は今日は私が奢るわ」



 古都華はそう言って、ギルド内の空いているテーブルを指差した。


 ギルドの中は、冒険者たちの登録を担う受付と、食事ができる喫茶スペースがある。 


 蓮と古都華のPTパーティは丸テーブルを囲んで席についた。

 


「あ、これ僕のキャラクターカードです」

 そう言って蓮は、指先で空にジェスチャーを描く。


 蓮の目の前の空中にウィンドウが開き、キャラクターカードが出現する。


 キャラクターカードにはハンドルネーム、現在のジョブ、レベルなど、簡単な情報が載っていて、挨拶時に使われている。


 本名や年齢、レアスキルなどキャラクターカードに載っていない情報は、お互いに聞かないのがマナーだ。



 「レンくんのジョブは戦士ウォリアね、助かるわ」


 古都華は蓮のキャラクターカードを覗いて言った。



 蓮の見た目は軽装の鎧と手斧、短剣である。


 蓮のジョブ『戦士ウォリア』のクラスは『タンク』だ。


 タンクとしてはやや防御が弱い分、素早さと攻撃能力が高く、サブタンクもできるアタッカーとしてバランスの良いジョブであり、そこそこ人気がある。



「私のジョブは『聖女シスター』ヒーラーを担当するわ」古都華は言った。

 


「そしてこちらの二人が、私たちのPTパーティのハルとスズよ」


「よろしく」


 古都華に紹介された男性と女性が頭を下げ、それぞれキャラクターカードを提示して蓮に見せた。


 男性の方がハル、女性の方がスズの様だ。



 ハルのジョブは騎士ナイト、クラスはタンクである。見た目も鎧兜に身を包んで長剣を腰に下げ、背中には大きめの盾を背負っている。いかにも騎士ナイトらしい。

 


 スズの方は、魔法士ウィッチ、クラスはアタッカーである。スズの装備はフード付きのローブに杖という、これまた見た目からして分かりやすく魔法使いだった。


 

 ザラートワールドでは基本四人でPTパーティを組む。


 構成は、味方に攻撃が行かない様に敵の攻撃を受け止める『タンク』が一人、敵に攻撃を仕掛ける『アタッカー』が二人、味方のダメージを回復する『ヒーラー』一人、の構成パターンがオーソドックスだ。


 また、『タンク』が二人で敵の攻撃を受け止め、『アタッカー』が一人、『ヒーラー』が一人のパターンも多く見られる。その場合、タンクの一人は『メインタンク』となり、もう一人のタンクは『サブタンク』となり、敵の数に合わせてタンクとアタッカーの役割を切り替える事になる。



「あと、今日はいないメンバー『ライ』君を加えて四人が私たちのギルド【コンフィズリーズ】よ。これからよろしくね」


 古都華がそう言った時、テーブルに食事が運ばれて来た。肉料理をメインに野菜のサラダとスープがついた、食べ慣れた冒険者定食である。



 ザラートワールドはバーチャルな世界なのだが、視覚・聴覚はもとより、触覚・味覚・嗅覚に至るまで完全にリアルに感じられる。


 唯一、痛覚だけはほぼ感じることはなく、プレーヤーは、ダメージの際には振動に似た衝撃がフィードバックされる。


 食事は本来、取る必要はないが、食事によって一定時間パラメータの上昇バフがつく為、冒険者たちはダンジョン攻略の前には食事をするのが普通だった。

 


「さっそくですが、今日はどこを攻略する予定ですか?」


 蓮は古都華に聞いた。


「ローグダンジョン三層よ」

古都華は蓮に答える。


「三層か……」

蓮は考え込んだ。



 ローグダンジョン——それは、通常のクエストをクリアしたプレーヤー向けに設定されたダンジョンだ。


 所謂、エンドコンテンツと呼ばれる高難易度コンテンツである。

 


 ローグダンジョンは、地下全五層の大迷宮だ。

 ローグダンジョンは入る度にその形が変わる為、前回のマッピングが役に立たなく、毎回迷わされる事になる。


 そして各層の最新部にはボスがいて、ボスを倒せばその層のクリアとなる。


 各層をクリアするとセーブポイントが発生し、そこから地上へワープして戻る事ができる。


 次回は再びセーブポイントから戻る事ができる為、プレーヤー達は、一層づつじっくり攻略していくのだ。



蓮は考え込んでいた。


その様子を見ていたハルが蓮に話しかける。

レンくん、その様子だと、初めてじゃなさそうだね」


「はい。このダンジョンは、野良PTパーティで何度か挑んだ事があります。一層、二層はそこまで難しくないので、クリアできるPTパーティは多いです。

ですが、三層から難易度が難しくなってきて、ちゃんと連携を取れないとすぐ全滅します。正直、野良で参加しても挫折するPTパーティは多い……です」


「そうだったのか……実は、うちらのPTパーティは、第二層が思いの他早く攻略できたので、余った時間でそのまま第三層にも少しだけ行ってみたのだが、あっさり全滅してしまってね。今日は皆少し不安だったんだよ」


 ハルは年長らしい落ち着いた様子で話す。


 おそらく、ハルがこのPTパーティのまとめ役なのだろう……と蓮は思った。


「はい。クリアできなくても全然おかしくない。ここはそういう難易度なんです。今日は敵の動きを覚える事に重点を置いて、あまり気負わずに行くのが良いかと」



 蓮はそう言って、古都華の方を見た。

 


「そうかー。レンくんありがとう。じゃ、練習のつもりで気楽にやりましょ」


 古都華はそう言って笑った。

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