第9話 村役場

僕は恐ろしい事にようやく気がついた。


「あんた名前も覚えてないの?」

村役場の窓口は呆れたようにそう言った。


そうなのである。今更気がついたが僕は自分の名前を忘れていた。


「最近そういう人が多いんだよねえ」

窓口の係員は呆れたようにそう言った。


「なんか変な服きてさ、やれ勇者だなんだってさ」

全くどうなってるんだろうねえ、と鼻で溜息をついてそう言った。


「多いんですか?」

僕は気になって訊いてみた。


「多いねえ。特に若い人が多いね」

家出なのかも知れないけどどうしようもないね、と係員は言った。


「そういう人はどうしているんですか?」

僕は気になって訊いてみた。


「大体はいつの間にか消えちまってるよ、そういう人は」

何か怖いことをさらりと言ってるし。


「…消息不明ですか…?」

そう訊いたが、係員は判らないねえ、と言った。


「最初から身元不明だしどうしようもないんだよ、こっちも」

そりゃまあそうなんだろうけど保護施設とかないの?


「大体にして何でこんな田舎に来るかね。その方が不思議だよ」

自殺志願者なのかも知れないと問題視されているらしい。


「全員居なくなるんですか…?」

僕は恐ろしくなって訊いてみた。


「いや少しは残ってる人も居るよ」

係員はあっさりとそう言ってくれた。


「残っている人はどうやって生活しているのですか?」

僕は期待を込めてそう訊いた。


「大体は魔王刈りなんかやってるね、そういう人は」

なんかすごい事を言われたぞ。

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