50 子供の成長
『――代わったよ。どうしたんだい、ウィズ? こっちに連絡をするなんて』
『ふむ、なるほどね。我が『アーク領』でそんなことが』
『いいよ。任せるよ。でも、我が『アーク領』の領民たちに何かあったら……ははっ。まあそれはいいか』
馬を駆りながら、役所の『
本来ならこの町の警察機構に相談する案件だが、ウィズは『アーク家』とつながりがある。折角であるのと、彼らの信頼を厚くしておきたかったので、彼らに連絡を取ったわけだ。
通信に出たのはアルトであった。ウィズから用件を聞くや、その解決をウィズにぶん投げてきた。
「……」
ある種の疑いのかけ方だろうか。とりあえず、ウィズはこの事件を解決せざるを得ない。隣にソニアがいる時点で、これまでと同じ振る舞いをしなくてはいけないのだから。
「着いたか……」
人込みの中で馬車を飛ばし、ウィズたちは役所に着く。馬車を入口付近には止めず、ウィズはその裏へと回った。
「お待ちしておりました」
役所の
ソニアはその人たちを見ながら、ウィズに問う。
「この人たちは……?」
「事情を知ってる人。全面的に協力してくれるんだって」
ウィズはそう言いながら、馬車から飛び降りる。ソニアもそれに続いた。
二人が地面に足をついたところで、待っていた役人たちの中で一番年長の女性がそんなソニアへ言う。
「貴方がソニアね。ウィズから話は聞いているわ。わたしはエイジャ。話は中でしましょうか。例の二人は馬車に詰め込んでいるのでしょう?」
こげ茶色のくせっ毛のある短髪で、その年を感じる女性――エイジャは左右の二人の若い役員に指示を出した。
うなずいた二人の役人が馬車へと迫ると、中を確認して足場付近で転がっていた二人の悪党を引っ張り出す。どちらも縛ったままなので、特に苦労もされないまま、彼らは持ち上げられた。
「行きますよ、お二方。部屋は準備してあるわ」
「ありがとうございます。エイジャさん」
ウィズはエイジャに頭を下げる。
今の状況を『アーク家』に知らせるため、ウィズが役所に訪れた際に『アーク家』へ『
突然現れては『証明書』を見せて『アーク家』と連絡を取る願い出をするウィズに、受付にいた役員はあまり良い顔をしておらず、消極的だったのだ。『前例がない』『アーク領在住ではない』『ウィズが無名である』といった理由付けをつけられ、問題を先送りにされかけていた。
そんな時に、エイジャがその状況を遠目に見つけたのだ。彼女はすぐに受付の役員と交代すると、ウィズの話を直接イチから聞いてくれた。
そして円滑に物事は進み、『アーク家』との『
「貴方たち、フィリア様の護衛をしていらしてるのよね」
裏口から役所の中に入る一行。歩きながら、エイジャが二人に言う。
先頭に悪党を運ぶ役人、その後ろにエイジャと続き、最後尾にウィズとソニアが歩く構図になっていた。
ソニアは少し不思議そうに答える。
「そうですけど……」
「フィリア様はお元気かしら。最近、近くで拝見することがなかったから気になっていてね。ほら、飴ちゃん上げるから教えてくれない?」
そう言って薄く笑うと、エイジャはソニアに黄色の飴を差し出した。
ソニアは困惑しながらもそれを受け取る。
「とても凛々くて毅然とされていますよ。ボクたちの護衛がいるのかなってぐらいに強いですし……」
「そう」
エイジャはどこか清々しい表情で目を閉じる。
「わたしはフィリア様を幼い頃から見てきたけど……。子供の成長とは早いものね。フィリア様にねだられて、みんなに秘密で飴ちゃんをあげた日がつい最近のように思えるもの。これも老いかしら。時間の感覚が引き延ばされている感じがするわ」
昔日を思って述懐するは穏和を感じさせた。エイジャの言葉に、話の外にいたウィズでさえも懐かしさに溺れそうになる。
「フィリア様が……。ふふっ、なんだか可愛いですね。今も素敵ですけど」
ソニアはエイジャの言葉にくすりと笑った。
確かに『家訓』を意識したフィリアの面影からは、エイジャの言っていたような彼女は想像もできないだろう。彼女の素を知っているウィズはその面影を何となく理解できた。
そんな話をしているうちに、目的の部屋についたようだ。中は少し埃っぽい。イスや机などの備品が置かれている部屋で、さらに奥には二つの扉があった。
全員が部屋に入ったところで、エイジャが扉を閉める。ウィズたちが捕獲した男女はイスに座らせられて、今度はちゃんとした縄で束縛された。
「さて……早速だけど始めるかしら?」
「そうですね……。いつ勘づかれるか分かりませんし……」
エイジャの言葉にウィズが顎に手を当てながら応える。何も聞かされていないソニアが疑問を声をあげた。
「何を始めるの?」
「ああ、簡単なことだよ」
疑問符を浮かべるソニアに、ウィズは真剣な表情で告げた。
「さっきも言ったかな。言葉通り、簡単な尋問だよ。――穏便に済めばいいんだけどね」
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