49 本当の


 ウィズたちが女店員――カイラを脅していた男たちを捕らえた。


 その後、店にいた客たちにもちょっとした聴取をした。全員が無関係だと判断るや、調書に対する謝罪と感謝をしてから解放した。


「さてと、何があったか説明してもらえますか?」


 ソニアが真面目な眼差しで女店員に問う。


 場所は店の事務所。女店員を脅していた男とその協力者と思われる女は、縛られたまま並んで床に転がされていた。


 その周りにはウィズとソニアが立っており、そして少し離れたところで脱力した女店員がイスに座っている。


「……」


 女店員は黙って握りしめたものを前に出した。それは黄色いバンダナで、かわいらしい花が縫われていた。恐らく手縫いだと思われる。


「これは、私の娘のお気に入りのバンダナです。それをその男が持ってきて……」


「娘を誘拐した証拠ってワケですね」


 ウィズの言葉に女店員は黙ってうなずき、そのバンダナをぎゅっと胸に引き寄せた。


「私は……どうすれば……」


「……」


 店で起きた事態は収束した。けれども、根本的な解決には至っていない。彼女の娘は捕らわれたまま、その居場所すら分からなっていないのだ。


 ウィズはそんな女店員へと告げる。


「僕はウィズ。で、この子はソニア。貴方、名前は?」


「……カイラ、です」


「娘さんの方は?」


「ユーナといいます……」


「そっか」


 ウィズは明るく笑った。そして懐の中から、『アーク家』を出る際に貰った『証明書』を取り出す。それを女店員――金髪のカイラに差し出した。


 『アーク家』が発行した『証明書』――そこにはウィズが『アーク家』の従者であることが示されている。それを見たカイラはハッとしてウィズを見上げた。


「ユーナちゃんは僕らに任せてほしい。これから役所に行って『通信水晶シグナルクリスタル』で『アーク家』と連絡を取ってくるよ。ここは『アーク領』だから、そこで起きた事件は『アーク家』を通すのが筋だと思うからね。僕らが勝手に動くわけにはいかない」


 そう言ってソニアへと目配せする。ソニアもうなずいて、自分の『証明書』を取り出して見せた。


 これで二人とも『アーク家』の関係者であることをカイラに示せた。娘のことで頭が一杯だったカイラも、これで少しは心が安らぐことであろう。


 『アーク家』――さっきの喫茶店でのことや、さっきカイラが脅されていた時のことから思うに、『アーク領』の民からして『アーク家』という存在は高くそびえたっていた。その大きさは強さに還元され、ある意味では『アーク家』を恐れている。


 しかしその反面、その強さは安心感にも繋がっているようだった。それは『アーク家』への尊敬から現れている。例えそれが表向きであろうとも、最悪なカタチで嫌われているわけではなさそうだった。


 少し和らいだ雰囲気の中で、ウィズはソニアへと伝達する。


「というわけでさ。僕は役所にいって『アーク家』と連絡を取ってくるよ。ソニアはカイラさんと一緒にいてあげて。あ、こいつらが逃げないように見張りも忘れずにね」


「わかった。……早く戻ってきてね?」


「うん。そのつもりだよ。あ、申し訳ないけど店は開けたままにしておいて。カイラさん、接客が無理そうだったらソニアに任せてね」


「は……はい……!」


 カイラの事をソニアに頼み、カイラにも店を開いた状態を維持することをお願いした後、ウィズは踵を返した。そして足早に店を出る。


 実際問題、これからは時間との戦いでもある。対応にチンタラしていたら、カイラの娘を人質に取っている連中に感づかれるだろう。


 カイラの娘――ユーナを無事救助するためには、連中に気づかれる前にウィズたちは先手を打つ必要があった。事は早急に進めなくてはならない。


(さて……『アーク家』はどうでるか……。オレの事をまだ信用してねぇはずだからな)


 店の外に出たウィズは、そのまま走り出したのだった。



 ◇



 『アーク領』、『ガーデリー』にある服屋。名を『ニア・ハウジー』。


 店の中は閑散としていたが、別に閉店しているわけではない。


 店内の事務所にはソニアと、女店員こと店主であるカイラが、ズボンで縛られた無法者二人を囲んでいた。


 ウィズが店を出て数十分後、来店のベルが鳴る。それはウィズが帰ってきた合図でもあった。


「準備ができたよ」


 ウィズの帰還に事務所から出てきた二人を前に、ウィズは微笑を見せながら告げる。


 そして彼は後ろ――店の外へ親指を向けた。開いたままのドア。その先に見えるのは、ウィズたちが乗ってきた馬車であった。


 ウィズはカウンターのとろこへいる二人の下へ近づくと、顔を近づけて静かに告げる。


「あの二人は役所に連れていく。そこでごうも……尋問をして、ユーナちゃんの居場所を聞き出そう。早時間は押してるからね、詳しく説明はできないけど……」


 ウィズは心もとない不安を瞳に映すカイラを見据え、その不安を貫くような真剣な眼差しで言いのけた。


「ユーナちゃんは絶対に僕らが助けます。だから、貴方は安心して待っていてください」


「……! ありがとうございます……!」


 カイラの表情が一瞬だけ泣き崩れてしまいそうになったが、彼女はそれをすぐに押し殺す。そして深々と頭を下げた。


 ウィズはそれに頷き返すと、今度はソニアの方へ視線をずらす。


「ソニア。とりあえず例の二人を馬車に運ぼう。運転席の足元、ちょっと空間があったよね」


「あったけど……いやあったけど……結構狭かったような……」


「無理やりにでも詰め込もう。この際、犯罪者の扱いなんて少しぐらい雑でもいいでしょ」


 容赦のないウィズの判断に、ソニアはちょっと意外そうな表情をした。けれどすぐに頷いて、ウィズと一緒に男たちが転がっている事務所へと入っていく。


(……意外そうな表情、か)


 ソニアは女の方を持ち上げる中、ウィズはそう思いつつ男の方を持ち上げた。


(オレの"本当"を知ったら、コイツはどんな顔をするんだろうか……)


 杞憂でもなんでもない。ただ、ちょっと気になっただけだ。


 ウィズはソニアと一緒に襲ってきた男女を素早く馬車の足元に詰める。そして無理やりに馬車に乗り込むと、すぐに手綱を振るった。


 馬車は動き出す。行先は『ガーデリー』の役所。目的はカイラの娘、ユーナの救出。


 二人はカイラの希望を背負って、足を進めたのだった。


 

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