第20話
「常連の人……ってわけでもないんだよね?」
また来るだろう、とその後姿を見送った後、ルヴィが伺うように視線を向けた。
「ええ、魔剣を一度貸し出した方です」
「それにしてもずいぶん熱心だったね。自分の考えがすごいはっきりしてる」
「彼の言葉、あなたはどう思いましたか?」
「うーん、確かにちょっと値段は高いのかなとは思うけど……。でも、ヒュアートの考えも聞いてたから」
「そうですか」
「うん。それになんだろうね、少し、強引だったかなとは思う」
ルヴィは視線をドアの方に向け、思い返すようにつぶやく。
「私に気を遣う必要はありませんよ」
「そんなつもりじゃないよ。……あれだね。値段とかの前に、その性格直した方がいいんじゃない?」
顔を上げていたずらっぽく白い歯をこぼす。
「ことさら無理なお願いですね」
「やっぱり?」
それからルヴィは、何かを逡巡するように視線を落とした。そして、
「まじめな話をするとね、この前、魔獣を退治した後、すごい感謝されて、正直、嬉しかったの。だから、それを理由にするのもありなのかなって思ってる自分もいる」
山奥での町の魔獣退治の話。
「別に、それでもいいんじゃないですか?」
「でも、それを目的に魔獣を退治するのは本末転倒じゃない?」
「そうでしょうかね。どちらが根っこであろうと構わないと思いますよ」
「そうかな」
「まぁ、気を付けるとしたら、その感謝は相手側の感情ですから、立場によって様々です。感謝をもらえない場合も当然あるでしょう。もし、それを得られないときに理不尽さを感じてしまうようなら、動機にすべきではないのかもしれません」
「確かに……自分の感情で動いてるだけになっちゃうね。そうならないようにしないと」
あの少年は相手の立場を考えられているのか。疑問が残る言動ではあった。
「でもヒュアート、でもそんなこと考えるんだね」
ルヴィは、またフッと茶化すような笑みを浮かべる。
「説教めいたことを言ってしまいましたね。考え方はひとそれぞれです。あまり気にしないで下さい」
「謙遜しないで、すごいなって思っただけだよ。あたしは、自分のことばっかりだから」
「喋りすぎました」
「もっとヒュアートの話が聞きたいな」
「もう何もありません」
「えー残念。やっぱり値段とかよりさ、もっと愛想をよくするべきだよ」
にやりと顔を覗いてくる。
どっかで聞いた言葉だなと思いつつ、視線を切ってさきほど返された剣を奥の部屋へ持って行こうとする。
「その剣って、また店に出すんだよね?」
「メンテナンスをしてからですね」
「へぇ……魔剣のメンテナンスってどういうことするの?」
もっともな質問ではある。
ルヴィはさらに続ける。
「こないだあたしが使った剣も。そのメンテナンス? をやってからまた店に出するの?」
「ええ」
「それで、それはどんなことをするの」
早速ついてきたか。魔剣を知りたいという感情。
やはりしたたかだ。いや無意識でやっているのか。まぁ、あえて隠すことでもないか。これが流れだろうかと諦める。
「もう一度、魔力を込め直すんですよ」
「魔力を込め直す」
同じ言葉をオウム返してくる。具体的な想像はできないようだ。
「ふぅん。そうなんだ……。よく分からないけど、それって、あたしにはできないの? あとさっきクラウさんも言ってたけど、新しく作ることとかとは違うことなの?」。
少し出かかった言葉があったが、それを出すとルヴィの過去をまた聞くことになりそうだと感じ、その億劫さにせき止められる。代わりに違う言葉を返す。
「これは私の仕事ですから、そこまで気にしなくて大丈夫ですよ」
「そう……なんだ」
ルヴィが残念そうに小さな声を漏らす。
さらに何か続けるか迷っているようだったが、それを待たずに奥の部屋へ入った。
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