第18話
「でも、実際問題、魔剣は、もっと手ごろな値段にした方がいいと思うんです。僕は」
そんな言葉を頭につけ、クラウは続けた。
「今回、初めて魔剣を使わせてもらいましたが、獣を倒すのにとても優れた武器でした。お世辞ではなく本当です。魔力っていうんですか? それがある分、普通の剣と比べると攻撃力もさることながら、何よりも間合いが格段に遠く、獣の攻撃を受ける危険性が減ります」
頷きも相槌も返していないが、その口は止まらない。
「問題があるとすれば、人によって魔力の扱いにはバラツキがあるみたいですね。ギルドで魔剣を借りたことのある人に聞きました。だけどそれも、訓練すればある程度は改善できるようです。今回の僕もそうでした」
口調は徐々に熱を帯びていく。
「何が言いたいかといいますと、魔剣の訓練をする機会さえあれば、誰でも、獣を、魔獣さえも退治が用意になるということです。だけど、この値段では、そんな機会を持つことすら難しくなります。一般の人はもちろん、ギルドにいる傭人ですら躊躇する値段です。せっかくこんなに素晴らしい剣があるのですから、もっと気軽に、いろんな人が使えるべきだと思うんです」
その言葉に反応したのはルヴィだった。
「もっと、いろんな人が?」
クラウの視線がそちらへ動く。
「はい。世の中で獣の被害にあっている人は沢山います。それを考えれば、そう思いませんか? 例えば、街の警備隊に配るなどすれば、ギルドに任せっきりの獣退治を警備隊と分担することができます。そうなれば、単純に対応できる人が増えて、依頼ありきの、事後の退治になってしまっている現状を変えることができるはずです」
大きな期待を具体的な絵にできている、そんな表情だ。
街の警備隊は、クラウが所属している組織でもあった。名前の通り、街を守るための組織で「獣と戦うこと」も仕事の中に含まれている。しかし、あくまでの街の警備、自衛に特化したものであった。人の住んでいない場所で獣の目撃情報があったとしも動くことはなく、もう少し身近な、街の郊外、山奥の町、そう言った場所ですら出向くことは無かった。
それは、獣退治における捜索の手間、危機回避のための道具や手段、経路の確保など、それなりの準備が必要となるためだ。その結果、街の警備がおろそかになっては本末転倒となる。だからこそ、街の外で起こった事態は、ギルドが引き受ける形となっている。
もっとも、街がその現状に一切配慮していないというわけでもなく、ギルドの運営に資金を援助したり、獣の情報を優先的に流したり、武器の手配をしていたりもする。
当然、そうした関係をクラウは知っているはずだ。
「現状の警備隊とギルドの関わり方が不満ということですか?」
「うーん、そうなってしまうんですかね……。決して批判をするつもりはありませんけど」
「まぁ、考え方は人それぞれでしょう」
「でも、本気で考えてみませんか? そうだ、ヒュアートさんが警備隊で働くというのはどうです? それで、この街で魔剣を広めませんか? 僕が掛け合ってみます。他の街では分からないのですが、少なくとも、この街の警備隊に魔剣のことを知っている人はいませんでした。だから、魔剣に精通しているヒュアートさんがいてくれれば心強いです」
言葉の裏側に、躊躇も遠慮も見え隠れしない。
ギルドの仕事を受けて獣退治をしたクラウ。警備隊の仕事とは別に行ったということだ。純粋に獣退治の重要性を考えている人間だからこその言葉なのだろうが。
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