魔剣レンタル②

第17話

 数日振りに客が来た。

 店の扉がギイッという蝶番の音を立てて開き、一人の少年が入って来る。


「こんにちは」


 カウンターの少し前で、少年は礼儀正しく頭を下げた。


「いらっしゃいませ」


 営業文句を返すと、続いてルヴィも声を上げる。


「いらっしゃいませ」


 少年が不思議そうにルヴィを見た。前に来たときはいなかったからだろう。


 クラウ・ナイフと言う名の少年だ。年は十七で、さっぱりとした黒の短髪に、細やかな刺繍が施されたグリーンの服、そして、背中には細長い長物を背負っていた。


 クラウはギルドに出入りしている庸人の一人で、一週ほど前にギルドで会ったとき、獣退治のために魔剣を貸していた。


「返却ですか? 期限まであと五日ほどあったと思いますが」


 尋ねると、ルヴィへ向けていた目線をこちらに戻し、口元を緩めた。


「返却です。目的の獣は倒しましたので、大丈夫です」


 背負っていた袋に入ったままの魔剣を手に取り、カウンターの上に置く。


「一応言っておきますが、返却の前倒に対応する返金はしかねますよ」

「大丈夫です」


 まだ幼さの残る柔和な表情で「あはは」と笑う。


 この少年は、ルヴィと違って金を持っていた。身に着けている服をはじめとして、小奇麗な身なりからも、それは明白だった。魔剣の値段を告げたときも、一度驚きはしたものの、文句や戸惑いを見せることはなく、仕方ないといった様子で、あっさり金を出した。

 さらに、度が付く程の真面目な性格なのか、「交渉する」という手段すら頭にはなさそうだった。


「あの、そちらの方は前に来たときはいませんでしたよね、新しく雇ったんですか? それとも、あなたのいい人ですか」


 補償金の返却を準備していたところ、クラウはルヴィへ軽く頭を下げ、そんなことを言った。


「違いますよ、臨時の店員です」


「そこまでのつもりは無いよ! 臨時の、臨時の店員!」


 こちらの声と重なったルヴィの声は、動揺の入り混じる必死なものだった。


「あれ、臨時という言葉は嫌っていませんでしたか?」

「それはそうだけど、ちゃんと違うって言わないとさ!」


 慌てふためくルヴィがさらに口調を強くして言う。


「別に大したことでは無いでしょう」

「た、大したことでしょ!」


 さらにキッと視線を強くしてこちらを見る。


 そのやり取りが面白かったのか、クラウじゃからからと笑い声をあげた。


「あはは。仲いいんですね。でもいいじゃないですか。そういうことになれば、この店がもっと良心的になるかもしれません」

「まるで今が悪徳みたいなものいいですね」


 視線をクラウに戻して言葉を返す。


「あ、すみません。そんなつもりはないんです」


 他意のない会話の流れからの言葉だったが、クラウは本気で申し訳なさそうに表情を沈めた。


「まあ、そう思っても仕方ないよ。あたしだってそう思ったもん」


 ルヴィがクラウをフォローするようにこちらを一瞥する。


「従業員がこの店を批判するんですか?」

「だって、臨時、でしょ?」


 クラウはこちらとルヴィを見比べて「本当に仲がいいんですね」と再び声をあげて笑った。


 しかし、すぐに表情を硬くしてこちらへ向き直った。

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